対立解消に本当に必要な言葉

慧は思わず、この対立解消に反射的にキーボードを叩いた。

「まあまあ、ふたりとも落ち着いて。一旦冷静になりましょう。」

その画面を見て、

(これは表面的な火消しの言葉だ。反射的なその場しのぎの介入が、かえって感情を逆なでしてしまう)

と思うと、送信のキーから指を離し、椅子に深く座り直した。

(……俺は今、このトラブルを早く終わらせたいと思っている)

慧は画面から目を離し、自分の呼吸に意識を向けた。そうして、場をコントロールしようとする短兵急な気持ちを鎮め、自分の内面を整えた。

冷静な自分を確認してから、慧は再び画面を直視した。今、ふたりに必要なのは、仲裁ではない。「自分たちの言い分がちゃんと届いている」という安心感だ。

慧は、あらためてキーボードを打ち、アウターリーダーシップの行動を起こした。

ノートパソコンで入力するアジアのビジネスマン
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです

慧:「お互いに譲れないポイントがあるようですね。文字だけだと誤解が生まれやすいので、明日15分ほど時間をいただけませんか? 私におふたりの話を直接うかがわせてください。」

送信キーを押すと、すぐにふたりから返信が送られてきた。

「わかりました。お願いします。」
「了解です。」

内なる静寂が、外の対話を動かし信頼になる

翌朝。会議室に入ってきた佐伯と松田は、前日の緊迫感を引きずったままだった。

慧がホワイトボードを使って、「佐伯さんの守りたい納期」と「松田さんの守りたい品質」を並べて整理し、対立の原因は単なる「認識のズレ」であることを見える化した。

原因がはっきりしたことで佐伯と松田は落ち着きを取り戻した。最後には、「じゃあ、ここはこうしましょう」と、ふたりが自然と歩み寄りを見せた。

ミーティングの後、オブザーバーとしてその場に呼ばれていた佐々木が、感心したように声をかけてきた。

「チャットが荒れたとき、慧さんがすぐに反応せずに、一拍置いて返信しましたね。あの時間も佐伯さんと松田さんには大事だったのかなぁ……」

慧は頷き、少し照れくさそうに笑って言った。

「すぐの反応だと、火に油を注ぐ。まずは自分が冷静さを整えて、それから動く。そういうことがトラブルのときって大事だと思ったんだ」

デスクに戻った慧は、ノートに今日の小さな手応えを書き留めた。

外のトラブルに対処する一番の近道は、まず自分の内側の心を鎮めること。

内なる静寂が、外の対話を動かす。その結果が信頼につながる。

窓の外には、雲ひとつない青空が広がっていた。整えた心で動き、その手応えをまた内面に取り込む。そのリズムが、慧に確かな「リーダーとしての軸」を刻んでいた。