成長する人と、停滞する人は何が違うか。経験を自分への栄養に変える人は、ある技術を持っているという。人材コンサルタントの瀬田千恵子さんによるビジネスノベル『完璧なリーダーをやめたら、人と組織が動き出した』(加藤洋平監修・解説、日本能率協会マネジメントセンター)より、紹介する――。
正しさで人は動かない、評論家になるな
登場人物紹介
大石慧:成長著しい情報通信事業会社の事業戦略部チームリーダー。
山本拓海:事業戦略部の若手。
あじさいが色づき始めた6月の午後。窓にしとしとと当たる雨音が、今の慧の穏やかな心と重なっていた。
大石慧のデスクの上には、この1年間で使い切った5冊のノートが積み重なっている。
一番下のノートは、表紙が薄汚れ、角が丸くなっている。それを手に取ると、まだ誰かの「借り物の言葉」でしか語れずに悩んでいた頃の、迷いと焦りに満ちた自分の跡が現れた。
上司の言葉を真似しても、部下には響かない。自分の言葉はどこにあるのだろう?
この問いの答えは、まだ見つからない。
ページをめくると、インクの滲みや、乱暴に書き殴った跡が目に入る。それは、営業の佐伯の革靴にいくつも刻まれた傷を見て、現場の痛みが見えていなかった自分の不甲斐なさを省みた、あの春の日の記録だ。
正しさで人は動かない。現場の痛みを知らないリーダーは、ただの評論家だ。

