莫大な資金を投じ、毎月数百万ドルを得る
トランプ陣営は、Facebook広告に莫大な資金を投じた。ヒラリー・クリントン陣営をはるかに上回る額だった。
世界全体で見ても、選挙直前の数週間、トランプ陣営はFacebookの広告主ランキングの常連だった。それが可能だったのは、データに基づくターゲティングによって、Facebookを通じて毎月数百万ドル規模の選挙資金を集められたからだ。実のところ、Facebookはトランプ陣営にとって最大の資金源になっていた。
パースケールのチームはそれとは別に、投票抑制キャンペーンも展開した。標的にされたのは、民主党支持層のうちの3グループ――若年の女性、バーニー・サンダースを支持しそうな白人リベラル層、黒人有権者だ。
彼らには、いわゆる“ダークポスト”――特定の対象者にしか表示されない非公開の投稿――が送られた。研究者やほかのユーザーのフィードには表示されない。狙いは、ヒラリー・クリントンへの投票を思いとどまらせるような情報を届けることだった。
黒人有権者向けには、ヒラリーの「アフリカ系アメリカ人はスーパープレデターだ」という1996年の差別的な失言をもとにした風刺漫画が配信された。最終的に、黒人有権者の投票率は民主党の期待を下回った。僅差で勝敗が決まる激戦州において、こうした要素が大きな影響を及ぼしたのだ。
あまりにも醜悪な話
マークは無言で説明に耳をかたむけていた。すぐには受け入れず、反論したりしていたが、しだいに好奇心が募ったようだった。その仕組みを理解しようと質問を重ねた。
Facebookがそのような形で利用されることを不快に思っている様子はなかった。むしろその巧妙さに感嘆しているようだった。もともと誰でも利用できる形で提供されていたツールだ。それをこんな風に活用した発想の鋭さに感心したのだろう。
私はエリオットの説明を聞きながら愕然としていた。といっても、初めて聞く話ではなかった。選挙の数日後、シェリル(Facebook最高執行責任者)の事業運営会議でその話が出たときも、同じ衝撃を感じた。そんなことをするような会社で働いているのだと思うと、ねっとりとまつわりつくような嫌悪が湧いた。
自分が創業者だったら、いったいどんな気持ちになるだろう。きっとあのときの機内でパニックを起こし、飛行機はメキシコあたりのどこかに緊急着陸する羽目になっていたのではないか。あまりにも醜悪な話だ。それほどの責任を自分が負うなんて想像もできない。
事業運営会議で同じ説明を聞かされたシェリルは、トランプ陣営の手口を理解するや、反感を示すどころか、それはすばらしく巧妙で革新的だ、トランプ陣営のそのブラッド・パースケールという人をFacebookに引き抜けないかと言った。誰もが黙りこんだ。
ぎこちない沈黙ののち、まずいことを言ったらしいと気づいたのか、シェリルは方向を変えた。「そうね、そんなのは無理よね。その人はいま、きっと引く手あまたでしょうから」一拍の間。
「でもトランプ陣営のほかの人なら、引き抜けたりしない?」


