どん底を味わった男の「大逆転劇」

この大失敗をもとに、英語圏では失言で自滅することを「ラトナーする(Doing a Ratner)」というようになった。ここまでがっつり名前が出るなんて、だいぶ気の毒である。

書影
近藤仁美『世界を変えた「凡ミス」図鑑』(三笠書房)

さて、文字どおり「クズ男」のレッテルを貼られたジェラルドは、どん底を味わった。これまで彼をもてはやしていた人々は去り、手元には一銭も残らなかった。

それでも彼は、根っからの商売人だった。数年間を家のソファで過ごしたのち、ついに立ち上がった。

ジェラルドが目をつけたのは、健康ブームで需要が伸びつつあったフィットネスクラブだった。自宅を担保に資金を調達し、「ザ・ワークショップ」という店舗を展開。ほんの数年で会員数を爆発的に増やし、2001年に390万ポンド(約12億円)で事業売却した。

そして、売却で得た利益は、なんと宝石業界への再参入に使った。あれだけ苦汁をなめたのに、チャレンジングすぎる!

今回の彼の勝算は、実店舗を持たずにオンラインで運営することだった。オンライン店舗は、今でこそ多くの企業が使っている手法だが、当時としてはかなり画期的だった。

ちなみに、このバーチャル店舗の名前は「ジェラルド・オンライン」という。ファミリーネームの「ラトナー」は「クズ」イメージが強すぎたので、今度はファーストネームの「ジェラルド」で勝負しよう、というわけだ。

ジェラルド・オンラインは、いつしかイギリス最大級のネット宝石販売店に成長した。そして彼の講演は、かつてのように、いや、かつて以上に大人気だ。

「皆さん、私のようにならないでください。もし口を滑らせそうになったら、即座にサンドイッチを頬張ることです。しゃべれなくなりますからね」

失敗を笑い飛ばすジェラルドを、万雷の拍手が包んだ。

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