「なぜそんなに安く売れるのか」への回答

1991年の春、ジェラルドはロンドンを代表する集会場ロイヤル・アルバート・ホールで講演をすることになった。聴衆は、なんと6000人。

企業の経営者や政府高官、ジャーナリストに至るまで、多くの人々がカリスマ経営者・ジェラルドの言葉を聴きたがった。

ところで、紳士の国・イギリスは、その実ブラックジョークの国でもある。政治も生死も、あらゆるものが冗談のタネになり、国民たちを笑わせる。そんなお国柄だから、ジェラルドも自社の成功を語るだけでは退屈だと考えた。

「我が社の商品がなぜこれほど安いか、不思議に思う方もいるでしょう。カットガラスのシェリー酒用デキャンタに、6つのグラスと銀メッキのトレイをつけて、4.95ポンド(約2500円)」

ジェラルドは、面白いことを言おうとする人間特有の、ニヤついた笑みを漏らした。

「人々は『なぜそんなに安く売れるのか?』と聞いてきますが、私はこう答えます。『それは、完全なクズだからです』」

会場は大ウケだった。

株価急落し、瞬く間に5億ポンドを失う

集まったエリートたちはジェラルドの毒舌を楽しみ、この様子を見たジェラルドは、よせばいいのに調子に乗った。

「我が社のイヤリングセットは、エビのサンドイッチより安い。しかも、はっきり言って、サンドイッチのほうが長持ちするでしょうね」

またしても爆笑だった。ジェラルドは満足げにステージを降り、講演はつつがなく終わった……かにみえた。

翌朝、イギリス中の新聞に彼の言葉が躍った。

――ラトナーの宝石は「クズ」。

社長自ら認める。

紙面を見た顧客たちは大激怒。

「今まで自分たちが記念日に買ってきたのはなんだったのか」
「大切な人に『クズ』を贈っていたというのか」

ラトナーの発言は、いわば経営者交流会で出た内輪の自虐ネタだったのだが、そんなもの、なけなしのお金で一生懸命宝石を選んだ人々には通じなかった。

頭を抱える男性
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ラトナーズグループの株価は下がりに下がり、ジェラルドは瞬く間に5億ポンドを失った。ついには自分の会社を追われ、家から出ることもできないほどのうつ状態になった。