既存メディアより影響力を持っている
私がハサン・パイカーの番組と出会ったのは、2020年の大統領選だった。Z世代の大学院生から「大きな影響を受けている配信者」として、名前を聞いたことがきっかけだった。
配信を視聴してみたところ、これが実に面白い。
例えば、「医療保険制度がおかしい」と批判するのではなく、「貧乏人に医療を与えたくないって、お前どうかしてるんじゃない?」というような煽り口調にユーモアが込められていて、思わず笑ってしまう。
またパイカーはよくCNNやFOXニュースなどのクリップを流しながら、最新の政治情勢を解説する。時にはAOCやバーニー・サンダースら、民主社会主義者・プログレッシブの政治家をゲストに迎え、真剣な討論も行う。
彼が大きな存在感を示したのは、2020年の大統領選テレビ討論会のストリーミング中継だった。この時、若者たちが討論会をCNNやMSNBCではなく、「Twitchでハサンと一緒に見る」という行動に出たことで、パイカーのような政治系配信者が既存メディアより影響力を持つという構図が可視化されたのだ。
マムダニ市長の増毛剤で大喜び
パイカーが人気を得た最大の理由は、彼が左派の政策を語るからではない。
若者に人気のTwitchという空間で、ニュース、雑談、怒り、笑い、生活感を混ぜながら、政治の話題を日常の会話に変えたことにある。
ロサンゼルスの自宅スタジオにはしばしば、愛犬のカヤの姿が見える。時にはお母さんがランチを届けに来たりもする。オーディエンスはそんな光景に、まるで友達の家に遊びに行ったかのような親しみを覚える。パイカーの配信は、かしこまって視聴するものではなく、「彼と一緒に過ごす時間」なのである。
パイカーの話題は、時に政治以外の、筋トレや男の身だしなみのような話にも及ぶ。
つい先日など、マムダニ市長が、自分が推薦した増毛剤を使っていることを知り、大喜びしている様子を配信していた。
こういったところを見ると、ジョー・ローガンら右派インフルエンサーのポッドキャストが担っている、「マノスフィア(男の居場所)」の役割を果たしているとも言える。
マノスフィアとは、「社会から自分の居場所が失われた」と感じる男たちが集まるネット空間だ。
家賃、医療費、学生ローン、AIによる雇用不安。少し前からアメリカの若者の間には、普通に働いてもまともに暮らせないという怒りが広がっていた。
その怒りをいち早く取り込んだのは右派だった。若い男性の孤独や不満は、マノスフィアの中で、反woke、反フェミニズム、反移民の物語へと変換されていった。
トランプは2024年の大統領選で、マノスフィアへの影響力を最大限に利用して勝利する。

