民主党主流派が警戒しているワケ
実は、民主党主流派はパイカーを警戒し恐れている。
パイカーその人を恐れているというよりも、彼の背後で膨らみ続ける、若者の親パレスチナ世論、富裕層批判、そして民主党中道派への不信といった動きを警戒しているのだ。
その警戒感がはっきり表に出たのが、2026年3月19日、ウォール・ストリートジャーナルのオピニオン欄に掲載された「民主党はハサン・パイカーに近づきすぎている」という記事だった。
寄稿したのは、民主党中道派シンクタンク「Third Way」の代表ジョナサン・コーワンである。
彼はパイカーを、反アメリカ、反女性、反ユダヤ主義的だと批判した。
全国紙が一人のインフルエンサーを名指しで批判したこと自体が、パイカーの影響力の強さを物語っている。
しかもこれは、単なる個人攻撃ではない。親パレスチナ世論の広がりと、親イスラエル・中道派路線との衝突、そして富裕層批判への警戒。民主党主流派が抱える不安が、パイカーという人物に集中している。
「9.11発言」で大炎上した過去
一方、共和党にとっても、パイカーは格好の標的である。
「国民皆保険」さえ「極左」「共産主義」と攻撃する右派にとって、社会主義を公然と語り、イスラエル政策を激しく批判し、若者に絶大な影響力を持つ彼は、叩きやすい存在だ。
その際に蒸し返されるのが、2019年のいわゆる「9.11発言」である。パイカーは当時、アメリカの中東政策と9.11をめぐる過激な発言で大炎上し、Twitchの一時停止処分を受け、その後謝罪している。
さらに2025年5月には、海外からの再入国時に、シカゴのオヘア空港で約2時間にわたり拘束・尋問されたと明かした。その際、トランプについてどう考えているかを聞かれたとも語っている。
民主党主流派からは危険視され、共和党からは攻撃対象にされる。パイカーはもはや、単なる配信者ではない。アメリカ左派の世論形成に影響を持つ存在として、政治の表舞台に引きずり出されている。
経済ポピュリズムは全米に広がるのか?
ニューヨークで起きた番狂わせは、一都市の出来事で終わるのか。それとも、他州へ広がる新しい政治潮流の始まりなのか。
パイカーの視線は、すでに次の選挙へ向かっている。8月4日のミシガン州予備選だ。彼が強く支持する民主社会主義者候補、アブドゥル・エル・セイドは、当初は泡沫候補のように見られていた。しかし今では、民主党内でトップの支持率を得るまでになっている。
パイカーはこう語る。
「2025年2月、マムダニは誰も知らない市長候補だった。それが今では誰もが俺を押しのけてでも彼と話したがる。そのオーラが他の候補者にも波及している。たった1年で全てが変わったんだ」
民主社会主義者による経済ポピュリズムは、11月の中間選挙に向けて、他の州にも波及していくのだろうか?
プログレッシブのコメンテーター、ヘザー・マッギーはこう語っている。
「有権者の多くが関心を寄せるのは、イデオロギーよりも毎日の生活です。“あらゆる人に医療を”“無償の乳幼児保育を”という一見左派的なメッセージは、今や右派の一部にも支持されています。こうした本物のポピュリズムは、保守州でも通用するはずです」
それがトランプに代表される、排外的ポピュリズムに勝つことができるのか。
答えはまだ出ていない。
だが、若者の怒りを女性や移民ではなく、家賃、医療費、賃金、企業権力へと向け直す試みは、すでにニューヨークで結果を出し始めている。
その声がどこまで届くのか。メガホンは、今日も声を上げる。

