「時給6000円」のカラクリ
末澤さんは、パートに地域の最低賃金をはるかに超える賃金を支払いながら、自身の時給換算は「6000円」を超えるという。キウイ栽培の時給は、2007年と少し古いデータだが農水省が発表する最新のもので1533円(自営農業労働1時間当たり/農業経営統計調査)。現在は気候変動やコスト高の影響でもう少し下がっていると予測できるので、時給6000円がいかに高い水準かわかるだろう。一般的なフルタイム(1日8時間・月20日勤務)で年収換算すると、日本人の平均年収を大きく超える、約1100万円という高水準だ。
なぜ農業の現場でこれが可能なのか。その答えは「収量」「単価」「労働時間」のすべてを最適化しているからだ。
第一に「収量の高さ」である。ニュージーランドでは気候が一定のため、10アール(1反)あたり約6トン収穫できるのに対し、日本の平均は約2トンにとどまる。しかし、末澤さんの経営では10アールあたり約3.5トンという極めて高い収量を誇る。
第二に「独自の高単価ルート」だ。国産キウイの一般的な市場価格(卸売価格)はキロ400〜600円程度だが、末澤さんは「300グラム300円」のパック売りで1キロ換算約1000円近い高単価を実現している。さらに、地域の農家とチームを組んで展開する大型量販店などの大口取引でも、キロ600円台後半という独自の販売ルートを確立している。
この「高い収量」と「高単価」を掛け合わせることで、キウイ農地で10a換算で売上240万円、収益150万円を叩き出す。この高収益は前述のストリンギング栽培やAIによって「パート中心の労働」で回しているのだ。
末澤さん自身がキウイ栽培に費やす時間は年間わずか400時間。その結果、時給換算6000円を実現しているのである。そして、農作業から解放された残りの時間を、経営戦略や新たな品種開発、企業等へのコンサルティングという他の事業にフルに充てることができているのだ。
農閑期をなくす「果樹コントラクター」構想
しかし、高い時給でパートや海外実習生を雇うといっても、それが365日通じて安定した仕事と収入を提供できなければ意味がない。キウイ栽培は冬の剪定や春の受粉で忙しい一方、夏にはどうしても仕事がない時期ができてしまう。
「果樹の経営が規模拡大しにくい理由の一つは、この作業の季節の偏りが大きく、習熟したスキルを持つ短期間の雇用が難しい点です」
そこで末澤さんが新たに着手したのが、農閑期を他品目で埋める「果樹コントラクター(農作業受託)」の組織化だ。キウイが暇になる夏前の時期は、まさに香川県の桃農家にとって「袋掛け」や「収穫」が重なる繁忙期。
桃農家もキウイフルーツ同様に、あるタイミングを除いては暇になる。それにより、通年の雇用ができないことがボトルネックとなっている。この一時期の作業を、末澤さん率いる部隊が請け負う。これにより桃農家は自力では不可能だった規模拡大が叶い、パート部隊は農閑期にも安定した仕事を得ることができる。地域全体で労働力をシェアして全員が儲かる農業を実現するという座組である。
一方で、キウイ以外の匠の技が必要となる作業をどうするのか。また、匠の技をどう標準化していくのかといった課題が残っているのも実情だ。現在、実験的に取り組んでいるコントラクター事業が、うまくいけば、他の地域や他の果樹にも応用できるのではと期待を込める。

