AIアプリで勘と技を「見える化」

さらに末澤さんは、テクノロジーの力で「摘果(実を間引きして減らす)」や「夏の枝管理(伸びすぎた無駄な枝や葉を減らす)」といった勘に頼る作業をも標準化させた。石川県のITベンチャー「エイブルコンピュータ」と協業し、スマートフォンで写真を撮るだけでAIが瞬時に果実の数や葉の量を計算するアプリ「フルーツ棚次郎」を開発したのだ。

キウイの木をスマートフォンで下から撮影すると、AIが赤枠で実を囲み「〇〇〇個」とカウントしてくれる。作業者は棚ごとに、いくつ摘果すればいいか一目で分かる。また、葉の量についても「開空率(葉と空の比率)」をアプリで計測し、適切な葉の量になるような枝管理を数字で評価することができる。

「剪定、摘果、夏枝管理はキウイ栽培のもっとも重要な作業です。この作業を脱属人化できれば栽培技術の理解は容易になります」

作業を数字で把握することにより脱俗人化、勘と経験を数字に置き換え、見える化し、学べば容易に再現できる栽培技術へと変える。長年の経験でしか得られなかった栽培技術の習得のハードルを下げること、すなわち「新規参入のハードルを下げ、新しい経営の血をいれる仕組みが、この国の果樹農業の課題解決の基本です」と末澤さんは力説する。

さらに現在、自身の栽培ノウハウや講演内容をすべてAIに学習させ、現場からの質問にチャットで答える「末澤AI」の開発も進めている。これにより、遠隔農家でも常に適切な技術指導を受けられる体制を構築しつつあるのだ。

フルーツ棚次郎の画面
写真提供=末澤さん
フルーツ棚次郎の画面

「1分で説明できない仕事はさせない」

テクノロジーの導入だけでなく、現場のオペレーションも、農作業の工程は詳細にこれ以上分解できないレベルにまで分けられている。

末澤さんは「1分で説明できない仕事はやらせない」というルールを徹底している。例えば、出荷用のキウイを300グラムの袋に詰める「袋詰め作業」でも、一人がすべてをこなすことはしない。Aさんは大きいサイズを2個入れる担当、Bさんは中サイズを3個入れる担当、Cさんは小サイズを1〜2個入れて重量を調整する担当と、完全に分業化している。そしてEさんがシールを貼り、Fさんが箱に詰める。さらにボトルネックとなる工程に人員を余分に配置して流れ作業化することで、圧倒的なスピードを生み出している。

さらに、マニュアル以上の「気遣い」が作業効率を左右すると語る。

「『袋にシールを貼ってくれ』という指示は曖昧すぎます。そこで、箱の一番下にサンプルの袋を入れ、その上に透明な下敷きを置く。そして『この下敷きのサンプルの位置とぴったり重なるように貼ってね』と指示すれば、絶対に位置がずれないし、迷うこともないんです」

どんなに立派なマニュアルや動画を用意しても、それらは単なる「教材」にすぎない。本当に重要なのは、相手が作業に迷わないためのこうした物理的なガイドと、現場で相手の不安を取り除きながら丁寧に教える「メンター的なOJT」である。

「規模が拡大し、家族以外の外部人材を雇うフェーズになれば、オーナー、マネージャー、ワーカーの役割を明確に分け、経営者はそれぞれに適切な指示を出す必要があります。コミュニケーション能力が農作業のスキル以上に必要不可欠なんです」