「2030年代に果樹農家は消滅する」
末澤さんが定年退職後に自らOrchard&Technologyを立ち上げた背景には、日本の農業に対する強烈な危機感がある。
「1995年ころに県内の果樹農家に年齢や経営意向、後継者の有無等のアンケートをしました。そのアンケート結果には、ほとんどの農家には後継者がいない。経営主の年齢をもとに将来を推計すると、2030年代後半から2040年代前半にはゼロになる計算結果が出てきたのです。ところがその後の現実はもっと厳しかった。5年に1回行われる政府調査によると果樹農家の減少速度は予測した結果よりどんどん加速。このままでは、あと10年くらいで日本の果樹農家の数は限りなくゼロになります。大半の経営で後継者がいないから。なぜいないかと言えば、規模拡大ができず儲からない構造的な問題があるからです」
日本の農業、特に果樹は「家族経営」に依存し、過剰な品質を追い求める「職人」の域を出ていない。加えて行政やJA等は手間暇かけて高品質を求め、オリジナル品種とブランド化で高付加価値を目指す。そして、オリジナル品種は県内で囲い込む。
「各都道府県がこのオリジナル品種の開発とブランド化という同質戦略の下で、手間と暇をかけて狙う高単価な果物に消費者は着いてこれていません。これに気付いた海外勢はグローバルスタンダードを握りに来ています。日本の果樹農業は今や絶滅寸前と言っても過言ではありません。国内の競争に打ち勝つための部分最適戦略が海外勢に市場を奪われた全体不最適の構造は、今まで日本がたどってきた他産業の失敗とおなじ」と末澤さんは指摘する。
この硬直化した枠組みの中では、世界を相手にするグローバルなアグリビジネスは実現できない。だからこそ末澤さんはOrchard&Technologyを立ち上げ、日本の農業をビジネスとして成立させる「新たな産業モデルを創り出す」ためのチャレンジに出たのだ。
「属人化」を打ち破る栽培技術の革新
現在、末澤さんがキウイ栽培において力を入れているのが、日本の農業が抱える最大の壁「属人化」の打破である。
農家の規模が拡大し、他人が農作業に入るようになると、長年の経験と勘に依存する「匠の技」がボトルネックとなる。キウイ栽培においてその最たるものが、冬の「剪定」作業だ。どの枝を切り、どの枝を残すかは、畑の木ごとに判断しなければならず、素人には手が出せなかった。
これを「脱・属人化」するため、末澤さんはニュージーランドの現場で導入されている「ストリンギング栽培」を取り入れた。これは、来年実をつける枝を紐で上に生育させ、今年実をつけた水平方向の枝は冬の剪定で切り取るというもの(一度実を付けた枝はもう実をつけない)。「水平の枝は切る、上方に伸びた枝は残す」というルールがわかれば、素人でも剪定の理解が簡単になるという仕組みだ。加えて剪定作業を細かい作業工程に分けて分担作業にすることで、速度が極めて速くなった。
具体的には、剪定する枝にハサミで一箇所に切り目を入れる作業と、その枝を細断、棚から下ろす、落とした枝をチッパーにかけ砕く作業などを分ける。細断以降の作業をパートや農福連携のスタッフに任せた結果、「従来1人での剪定作業は10アールあたり3週間ほど要していたが、今は2~3日で同じ面積を対応できる」と語る。
この栽培方法には「誰にでもできる」ことに加え、「作業時間の短縮によって、規模拡大ができるようになった」という経営上の劇的なメリットが隠されていた。
従来のキウイの剪定は、冬になって葉が完全に落ちてからしか、どの枝を切るべきか判断できなかったため、1月~2月中旬の40日程度という短期間で一気に作業を終わらせる必要があった。しかし、上と下で枝が明確に分かれているストリンギング栽培であれば、剪定で切り落とす枝は一目瞭然。葉がついている12月頭の段階から切り落とすことができるのだ。
「作業できる期間が約1カ月伸びるんです。数日で無理やり人数を集めてやるのではなく、数十日かけて作業してもらうことができる。それにより、パートさんのシフトを柔軟に組んで作業負荷を平準化することもできます。規模拡大だけでなく、作業負担の平準化もできることがストリンギングの本当の強みなんです」


