1日150グラムを目標に肉食を!
しかし、ただ単に「肉食=悪」という思い込みを捨てれば高齢者の食生活が変わるかと、話はそう簡単ではありません。正しい知識に基づいて行動したくても、体がそれについてこれない人もいるからです。
日本人の場合、高齢になるにつれて胃腸が弱り、肉をあまり食べられなくなる人はめずらしくありません。めずらしくないどころか、そもそも日本人の胃腸はあまり肉食に向いていないように思われます。
これは、長年にわたって粗食を強いられてきたせいもあるでしょう。また、江戸時代には、獣肉食が(少なくとも建前としては)禁じられていました。実際には、病気の治療や滋養のために獣肉を「薬」と称して食べることはありましたし(これを「薬喰い」といいます)、ウサギを「1羽、2羽」と数えるのは「これは鳥だから食べていい」とこじつける方便だったという説もありますから、まったく肉を食べなかったわけではありません。
脳内で「幸せホルモン」として働く物質
しかし日本人が長いあいだ肉食文化から遠ざけられていたのはたしかです。
胃が弱いのが日本人の国民的な体質であることは、薬の副作用を見てもわかります。私たち精神科医はうつ病の患者にセロトニンを増やす薬をよく処方しますが、これは脳内では「幸せホルモン」として働くものの、胃にはあまりよくありません。とくに高齢者の場合、胃のムカつきや吐き気などの副作用が多く見られます。
うつ病の薬だけではありません。同じような副作用は、骨粗鬆症の薬でもよく生じます。しかしうつ病でも骨粗鬆症でも、欧米ではこうした副作用がほとんど報告されていません。やはり、日本人は欧米人と比べて胃の弱い人が多いのです。
ですから、前頭葉の活性化のためには「無理をしてでも肉を食べろ」とは私も言いません。ただ、「肉は体によくない」という思い込みだけは捨ててほしいと思います。その思い込みがあると、胃の弱い人は「タンパク質は体にやさしい魚や大豆食品で摂ればいい」と思ってしまい、食べられる量の肉さえ食べようとしません。それでは、脳内のセロトニン不足がどんどん進んでしまいます。
肉が苦手な人でも、少しずつ食べて習慣づけることで、胃腸が受けつけるようになることもあるでしょう。まったく肉を食べていない人も、たとえば1週間に1食か2食、豚肉や鶏肉を中心にしたメインディッシュを食卓に並べてみてはどうでしょう。それぐらいでも、セロトニンの不足はいくらか補えるはずです。
もちろん、胃腸が丈夫で肉をたくさん食べられる人は、「体にはあんまりよくないよな」などと遠慮することなく、どんどん食べてかまいません。

