人生後半を元気に過ごすには、どうすればいいのか。医師の和田秀樹さんは「定年退職後の生活には気を付けたほうがいい。身体機能の衰えは、足腰よりも先に『心の衰え』や『社会とのつながりの喪失』から始まる」という――。

※本稿は、和田秀樹『老人は「キレる」くらいでちょうどいい』(集英社インターナショナル)の一部を再編集したものです。

シニア男性のシルエット
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人間が動物である以上「怒り」は消えない

喜怒哀楽の感情は人間が人間である以上、常につきまといます。動物行動学や進化心理学の観点からいえば、ことに怒りの感情は生物のサバイバルにとっては不可欠なものです。自分を攻撃してくるほかの個体や天敵に対して反撃しようとするのは生物としてはごく普通のことであり、その反応が高度に発達したものが「怒りの感情」だといえます。

つまり、怒りの感情というのは人間が動物である以上、決してなくならないものです。いかに優雅に見えて、優しそうに振る舞う人であっても何か不快なことに出合ったり、自分を攻撃してくる相手に向かい合ったときに内心、怒りを感じるのは当然のことですし、怒りを感じないほうがおかしいといえます。

しかし、普通の人は多くの場合、自分の怒りをストレートに表現しないものです。「顔で笑って、心で泣いて」ではなくて、「顔で笑って、心でムカついて」と対応することは決してめずらしくないですし、社会生活を送る上ではそのほうが何かと得策であったりします(怒りを覚える相手とはつきあわなければいいだけのことですし)。

なぜ高齢者はキレやすくなるのか

ところが、その怒りを押し殺すことができずに、ついついそれを外に噴出させてしまう――それが「キレる」という現象であり、高齢者になるほどキレる人が増えていきます。しかし、高齢者が怒りという感情を上手にコントロールできなくなるのは、いったいどうしてなのでしょう。

これは、おもに加齢による脳の変化によるものだと考えられます。

人間の身体が老化によって自然に衰えていくことは、誰でも知っているでしょう。残念ながら、脳も身体の一部である以上、例外ではありません。私たちの脳は、年を取るにしたがって老化していきます。具体的には脳を構成している神経細胞(ニューロン)が徐々に減っていき、脳そのものが萎縮していくのです。

こうして萎縮してしまった脳を元に戻すことは、少なくとも現在の医学ではできません。

脳の萎縮が病的なレベルまで進めば、認知症のリスクが高まります。とくにアルツハイマー型の認知症は、神経細胞が減って脳が萎縮するのがおもな原因。行動や思考を司っているのだから当然ですが、脳の萎縮が人間に与える影響はきわめて大きいのです。