物価が動く今こそが資産を見直すチャンス

今、日本経済は物価が上がり、金利も動き始めるという、約30年ぶりの大きな局面を迎えています。長く続いた低金利と物価の据え置きが、同時に終わろうとしているのです。現役世代のほとんどの人は、社会人になってからインフレというものを経験したことがありません。そのためなかなかイメージしにくいと思うのですが、まず押さえておきたい大前提があります。それは「普通預金にお金を預けているだけでは、その価値は実質的に目減りしていく」という現実です。

政府と日本銀行は、物価が毎年おおむね2%ずつ安定して上昇する状態を目標として掲げています。ここ数年、電気・ガス料金やガソリン代、米をはじめとする食料品、各種サービス料金などが軒並み値上がりしているのは、多くの皆さんが肌で実感されていることでしょう。国際情勢や農産物の凶作・不作、人手不足など、個別の理由はもちろんあります。しかし、もはやそれらを「突発的理由による一時的な値上がり」とは言えなくなっています。物価の上昇は、日本経済にとって構造的な流れになりつつあるのです。

一方で、現在の普通預金の金利は0.3%程度にとどまっています。物価が2%上昇しているのに対して、預金金利が0.3%しか付かないとすれば、その差、年1.7%分の購買力――すなわち実質的なお金の価値――が毎年失われていく計算になります。預金通帳に記された残高の数字そのものが減るわけではありませんから、なかなか気づかないのですが、同じ100万円で買えるモノやサービスの量は、確実に減っていきます。年1.7%という数字は、一見すると小さく見えるかもしれません。しかし、これが10年、20年という長い単位で積み重なっていけば、老後の生活設計にも大きく響くほどの差になるのです。

長くデフレが続いた日本では「残高が守られていれば大丈夫だ」という感覚が、多くの人の心に深く染み付いています。デフレとは、モノやサービスの価格が継続的に下がっていく経済のことです。そのような環境のもとでは、毎月の給与や預金の残高がキープできてさえいれば、実質的なお金の価値はむしろ増えていました。何もしなくても、お金の力は自然と強まっていたわけです。ところが今は、それとは真逆の経済が始まっています。「預金の残高が減りさえしなければ安心だ」という、かつては正しかった前提そのものが、根底から覆っているのです。

実質価値の目減りから資産を守るには、現金以外の、価値が目減りしにくい、あるいは価値が増える可能性のある資産に振り向けることが有効です。しかし現実には、頭ではわかっていても、まだ投資に踏み出せていない人が大勢います。日銀が3月18日に発表した資金循環統計(2025年10〜12月期)によると、昨年12月末時点の家計の金融資産は約2351兆円。そのうち約48.5%にあたる約1140兆円が、現金・預金で占められていました。「貯蓄から投資へ」の資金シフトが着実に進んでいるとはいえ、依然として家計の金融資産のおよそ半分が、インフレによって目減りしていく現金のまま保有されていることになります。

それでも、私は「確実に潮目は変わった」と感じています。日々、資産形成についてのご相談を受けるなかで「このままで本当に大丈夫だろうか」「そろそろ投資を始めないとまずいのではないか」と、危機感を口にされる方が明らかに増えているからです。とはいえ、これまで投資の経験がまったくないと「何をどう始めればいいのかわからない」「投資でお金が減るのが怖い」と、結局動けずにそのままになっている人もまた少なくありません。そういう方たちのお気持ちも、私にはとてもよくわかります。

預金太りと投資貧乏 どちらも落とし穴がある

しかし、インフレの局面では「預金に置いておけば安全だ」という前提はもう通用しません。現金・預金の価値はじわじわと減り続けていますし、もし運用していれば得られたはずの利益を取り逃がしているという、いわゆる「機会損失」のデメリットも同時に被っています。「このままではいけない」という感覚は、まったく正しいです。けれども、その感覚を持ちながらも立ち止まったままでいることの損失について、気づいていただきたいのです。

一方で、まったく逆の動きをされている方もいらっしゃいます。投資の必要性に気づいたところまではいいのですが、今度は現金をほとんど手元に残さず、株式や投資信託に振り向けてしまうというケースです。資産全体では潤沢にあるはずなのに、日々の生活に必要な手元のお金に苦労してしまう。そんな状態を指して「NISA貧乏」という造語まで生まれています。「倹約に努めて将来にしっかり備えているなら、それでいいじゃないか」と思われるかもしれません。しかし、運用中の資産を途中で売却しなければならなくなると、そのタイミングによっては大きな損失を確定させてしまうことにもなりかねないのです。

預金に寝かせておくのも、目一杯投資に回すのも、どちらにもそれぞれ落とし穴があります。では、いったいどうすればよいのか――。本稿では、それを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。私がいつもアドバイスしているのは「投資に飛びつく前に、まずは自分のお金の置き場所を整理してください」ということです。大切なのは、順番なのです。

【図表】目的別・お金の「3つの仕分け先」

お金を整理するときの手がかりになるのが、金融商品が持つ3つの特徴です。すなわち、元本割れをしない「安全性」、お金が増えていく「収益性」、そしていつでも出し入れできる「流動性」です。世の中にある真っ当な金融商品は、このいずれかの特徴に強みを持つ一方で、別の特徴には必ず弱さがあります。3つすべてを高い水準で同時に満たすような、都合のよい商品は存在しません。

(構成=渡辺一朗)