北九州の潜在的な「関係人口」

資さんうどんは1976年、創業者の大西氏が知人から北九州市にあるうどん店を譲り受ける形ではじまった。以来、50年にわたり特に地元では濃密に愛されている。それだけお店が続けば、資さんうどんが記憶に刻まれている人の数も多い。

「北九州にゆかりのある人というのは、全国にかなり多いんです。地元の人に加えて、企業の本社や支社も多いので転勤で住んでいたという人や、親戚や友人がいるという人、そうした人が関東の店舗にご来店して『関東でも食べられるなんて!』とお言葉をいただいています。資さんうどんを通じて、北九州にゆかりのある人は想像以上に多いんだな、と実感しました」

北九州は、官営八幡製鐵所が創業以来、鉄鋼や化学などの重化学工業が栄えた。そこで勤務していた人や転勤していたなど、潜在的な「関係人口」が、新店の集客を口コミで支える基盤になっている。

高遠山から見た北九州の工場街
写真=iStock.com/taka4332
※写真はイメージです

資さんうどんが関東に新店オープンした際、派手な広告がなくとも、客が殺到したのはそうした長年のファンが動いたのも理由のひとつだろう。

守るために、変える。変えるために、守る

資さんうどんの店舗数の拡大は、お店の味を均一化・効率化し、単に経済的な拡大をさせたいということではない。崎田氏の言葉を借りれば「本来の資さんうどんの姿に戻すための拡大」ということになる。

「今は、メディアなどに注目をいただいたことでお客さまが多く来店され『特別な資さん』になっている。私はこれを『日常の資さん』にしていきたい。現在、店舗や状況によっては並んで入店していただく状態になっている。

本来、資さんは地元では何ら特別ではないものでした。日常の中の選択肢のひとつとしてある存在だった。店舗数を増やして、より気軽に来ていただける環境をととのえなければという思いがあります。たとえ、1店舗の売り上げが今ほどでなくなっても、それは『日常の資さん』に近づいたということでしょう」

出汁は店舗で取り続ける。店内での手仕事のこだわりは変えない。おでんは湯気とともに見せる。人による接客は残す。これらすべては、「日常」を守るための非効率だ。一方で、ブランドポートフォリオの空白を埋め、カニバリを業態転換で解消し、全国に広げていく。これは「日常」を全国に届けるための変化である。

守るために、変える。変えるために、守る。崎田氏の戦略は、この二つの動きが矛盾なく同居している。

今年6月18日には台湾へ進出し、2027年以降は未出店地域となる東海や東北への出店も視野に入れ計画している。

「日常の資さん」を、北九州以外の場所にも広げていく崎田氏のミッションは続く。

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