未亡人から既婚者、若い娘へ

この架空の話の原型はどこにあり、何を意図していたのか、物語が完成するまでの経緯を追ってみよう。

まず、初出は長久年間(1040~1044)に成立した仏教説話集『大日本国法華験記だいにほんこくほっけげんき』にある。この時点ではまだ清姫の名はなく、女は夫に先立たれた無名の「寡婦」(未亡人)だった。安珍にも名はない。ただ「若い僧侶」とだけ記されている。ただし、鐘に隠れた男を焼き殺すなどの大筋は同じだ。

次いで12世紀前半、『今昔物語集』に似た話が所収されたのを経て『道成寺縁起』が完成するのだが、『道成寺縁起』では当初、女は役人の妻、または役人の息子の嫁という設定で、つまり未亡人が既婚女性に変わっていた。