中国は「歴史カード」を持ち出したが…

だが、中国側は国際社会からの参加者に向けた日本の印象工作を、演説だけで終わらせるつもりはなかった。

続く質疑応答セッションで、中国側は歴史問題を持ち出す。質問に立ったのは、同じく人民解放軍国防大学教授で上級大佐の沈志雄氏だ。

沈氏は、日本のある女性指導者(高市首相を指すとみられる)が先ごろオーストラリア戦争記念館で日本の軍国主義に倒れた豪州兵に哀悼を示した一方、アジアの被害国は日本から謝罪も反省の言葉も受け取っていないと指摘。

中国・韓国・東南アジアの被害国の懸念にも、日本政府は同じく真摯に応じる用意があるのかと問いただし、論点を歴史問題へ引き戻して日本を守勢に立たせようとした。

応じた小泉氏は、「ここからが難しいパートだ」と前置きしたうえで、日本の防衛政策は特定の国を脅威と名指しして対決する発想ではないと説明。

そのまま論点を「十分な透明性を欠いたまま急速に軍事能力を拡大する」中国自身の姿勢へと引き寄せ、それこそが日本と国際社会の懸念なのだと述べた。難しい問題から目を背けず対話を重ねるべきだとし、ここでも「日本の扉は常に開いている」と結ぶ。

「鮮やかな反撃」と絶賛

小泉氏がここで鋭く突いたのが、中国側の閣僚級人物らが会合に一切姿を見せなかった事実だ。国防相の董軍氏は2年連続で欠席し、代わりに送られたのは孟氏や沈氏ら軍人・学者からなる「格下の代表団」である。閣僚をリスクにさらすことなく、非公式格の代表を送り込んで攻撃役を担わせる。そうやって自国の閣僚に批判が及ぶのを避けながら、日本を非難してみせる中国の手口を、対話の重要性を説くことで暗に槍玉に挙げた。

中国の董軍国防相
中国の董軍国防相[写真=Ministry of Defence of the Russian Federation (mil.ru)/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

中国側が用意した直接の謝罪要求という土俵に、小泉氏が深く立ち入ることは最後までなかった。こうして小泉氏は、孟氏が口火を切り、沈氏が質疑で歴史問題を突きつけた中国側の二段構えの批判を、いずれも論点を中国自身の姿勢へと転じてかわしたのである。

中国が突きつけた「新型軍国主義」のレッテルを、逆に問い返してみせた小泉氏。

海外メディアが注目したのは、その切り返しの鋭さと、批判の矛先を中国側に向け返す手際の良さだった。各紙はこれを、鮮やかな反撃として報じた。

とりわけ強い言葉で評価したのが、米英の主要メディアだった。米ブルームバーグは小泉氏の反論を、「中国への鋭い叱責(a sharp rebuke against Beijing)」と評する。

英BBCも同じく「これまでで最も鋭い部類(some of the most pointed yet from Tokyo)」の発言と位置づけ、日本側がこれまで中国の批判に示してきた反応の中でも、際立って踏み込んだものだと評価した。