日米間で事前に綿密なすり合わせがあった

シャングリラ・ダイアローグに参加している各国や軍関係者の間では、この発言は客観的にどのように受け止められたのだろうか。

今回、アメリカのヘグセス国防長官に同行して会議に出席した国防総省の人物と接触し、話を聞くことができた。その人物によると、「小泉防衛大臣のあの発言は、日米間で事前に綿密なすり合わせを行った上でなされたものだ」というのである。

ピート・ヘグセス国防長官の公式肖像写真
ピート・ヘグセス国防長官の公式肖像写真(写真=U.S. Department of Defense/PD US Military/Wikimedia Commons

そもそもこのシャングリラ・ダイアローグという会議体は、これまで日本ではなく、米中間の対立や衝突の「最前線」と位置づけられており、双方による激しい非難の応酬が行われる場であった。

しかし今回に関しては、先に行われたトランプ大統領と習近平国家主席の米中首脳会談の影響もあり、中国側はアメリカに対する批判のトーンを抑えてくると予想されていた。アメリカ側としても、中国側が抑制的である以上、あえて激しい注文をつけることは回避する構えであった。

中国の「肩透かし戦略」

そうした状況下で、中国側は董軍とう・ぐん国防相を派遣しなかった。アメリカ側はこれを、中国側の「肩透かし戦略」であると即座に見抜いていたのである。

あえて格下の人物を送り込むことで、「シャングリラ・ダイアローグはそれほど重要視すべき対話の場ではない」というメッセージを発信する。そして、その上で日本に対する批判を展開する――これが中国側の狙いであった。

この思惑を事前に察知していたからこそ、中国の動きに対して、小泉防衛大臣が東南アジアやオーストラリア、ニュージーランドなどの参加国に向けて、明確な反論と情報発信を行うべきだという方針が固まったのである。

日米の綿密な連携の下に行われたあの毅然とした発言は、結果として、多くの参加国から日本に対する完全な共感を引き出すこととなったのである。