「知っている単語」ほど、実は難しい

東大英語に、象徴的な問題があります。

出題されたのは、「order」という単語です。orderは、中学生でも知っている基本単語でしょう。「注文」「命令」「順番」など、日常会話でもよく使われます。

しかし、東大はこの単語を、単に「意味を知っていますか」とは聞きません。

たとえば、「alphabetical order」と言えば、「アルファベット順」です。ここではorderが「順番」という意味で使われています。

では、「good order」が保たれている部屋とはどういう状態でしょうか。ここでは、「順番」という意味から派生して、「整っている」「整頓されている」という意味になります。

ここで問われているのは、単語帳の知識ではありません。

知っている意味を、文脈に合わせてどう広げられるか。基本的な知識を、状況に応じてどう運用できるか。そこが見られています。

これは、AI時代の仕事にもそのまま当てはまります。

AIに聞けば、単語の意味は出てきます。専門用語の定義も出てきます。業界知識の概要も出てきます。しかし、ある会議の文脈で、その言葉がどう使われているのか。顧客がその言葉にどんな不安を込めているのか。上司の一言の裏に、どんな判断基準があるのか。

そこを読み取るには、知識だけでは足りません。文脈を読む力が必要です。

東大が問うているのは、「知っているか」ではなく、「使えるか」なのです。

京大が問うのは、言葉の奥まで潜る力

一方、京大の問題は、別の角度から「知識があるだけの人」を揺さぶってきます。

京大英語では、見慣れない単語が平気で出てきます。たとえば、「blandly」という単語が出題されたことがあります。辞書的には「素っ気なく」「穏やかに」「味気なく」といった意味を持つ単語です。

多くの受験生にとって、なじみのある単語ではなかったはずです。

辞書
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しかし、京大が見ているのは、その単語を暗記していたかどうかではありません。前後の文脈を読み取り、筆者がその言葉にどんなニュアンスを込めているのかを考えられるかどうかです。

その文章では、大気や海の温暖化、海洋の酸性化、海面上昇、氷河の後退、砂漠化など、人類の活動によって起きている深刻な変化が述べられていました。それにもかかわらず、それらが“global change”と呼ばれている。

この文脈でのblandlyは、単に「穏やかに」ではありません。

深刻な事態を、あっさりした言葉で覆い隠してしまっている。筆者はそこに違和感を持っている。そう考えると、「気安く『地球規模の変動』と呼ばれている」よりも、「深刻さをぼかすように『地球規模の変動』と名づけられている」といった訳が立ち上がってきます。

これは、英語力だけの問題ではありません。

言葉の背後にある思想を読み取る力。文脈を手がかりに、見慣れないものの意味を推測する力。さらに、それを自然な日本語で表現する力が必要です。

AIが訳語を出すことはできます。しかし、その訳語がこの文脈にふさわしいかどうかを判断するには、人間の読解が必要です。