家族と地域で作り上げたブランド

「ときここち」は、家族とトネ製作所一同、そして地域で作り上げたブランドだ。製品のウェブサイトに飛ぶと、男性が津軽三味線を弾いている動画が目に飛び込んでくる。この人は荒川区在住の津軽三味線奏者の矢吹和之氏で、コンクールなどで何度も日本一に輝いた経歴の持ち主。

矢吹さんの起用を提案したのはホームページの作成を担当した近所のブランディング会社。温かみのある文章と相まって、印象に残るサイトになっている。

また、YouTubeにアップされている動画「【マンガ】ときここち物語~ときここちの誕生秘話~」の元になっている漫画やイラストの作画やフィギュアの製造は、次男の直樹さんが担当。それらを使ったポスターなどのデザイン、外部への製造発注は長男の祐樹さんが担当している。

長男の祐樹さんが作成したキャラクターの模型。そのモデルは利根さんと涼子さんだ。
撮影=プレジデントオンライン編集部
次男の直樹さんが作成したキャラクターの模型。そのモデルは利根さんと涼子さんだ。

こうして、みんなで一丸となって作り上げた「ときここち」から漂う“人情味”とでもいうべき趣きは、商品を通じて関わる人を温かい気持ちにさせる。取材を通して気づいたのは、ときここちに隠されたそうした下町の魅力であった。

6年半で2億5000万円の売上に

ときここちが売れたのは、それだけが理由ではない。最初のきっかけは先にも述べたようにデパートでの展示販売。それが話題となり、何度も出店することで、より広く知られることになった。さらに、ちょうどコロナ禍の「ステイホーム」の時期に自炊が流行したのも追い風となり、ネットショップを中心に2018年秋の発売から4年半で、累計2万3000本が売れたという。

その後、他にないニッチな商品だということでテレビに取り上げられることが急増。『news every.』『じゅん散歩』『出没!アド街ック天国』などたくさんの番組に出ている。今ではハンズやキッチン用品店などの実店舗でも取り扱いがあり、発売から6年半で累計6万本が売れたことになる。売上としては2億5000万円だ。

これからの展望を利根さんに聞くと、「日本全国1世帯1本ときここちを目指しているんですが、今の売上ペースで行くと、あと7000年かかるんです(笑)」と冗談めかしつつ話してくれた。また、「次は卵を5個まとめてとける新しいタイプのものの量産化を進めていきたい」と言う。

デジタル化や価格競争、人間関係の希薄化がさかんに言われる現代にあって、トネ製作所が示したのは「誰のために作るのか」という原点の強さであった。目の前の人の困りごとを丁寧に拾い上げ、真摯に向き合う積み重ねが、下町の工場から全国へ広がるヒット商品を生み出し、誰かの食卓を今日も豊かにしている。

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