時間とカネを駆使した「香港の中国化」

香港返還以後、中国政府は「一国二制度」の枠組みを維持しつつも、香港人に対する中国人としてのアイデンティティの強化を目指してきた。

2004年の国慶節には、初めて香港のテレビ局で中国国歌が生放送され、普通語(標準中国語)教育や中国史教育などを通じた「愛国主義教育」が推進された。こうした政策は、経済的自由を認めながらも、国家への帰属意識を高めることを目的としていた。

この背後には、経済的利益を通じて政治的統合を実現しようとする戦略がある。すなわち、豊かさや繁栄を享受することで、香港や台湾の住民が自発的に中国との統一を受け入れるようになるという「経済統合先行論」である。

この考え方は、鄧小平以来の中国指導部の現実的かつ漸進的な統一戦略として重視されてきた。香港の事例は、中国政府が経済力と時間を武器に、統一を段階的に進めようとする姿勢を象徴している。

中国国歌を聴いて大爆笑する子供たち

中国からの多大なる努力にもかかわらず、期待していた効果は得られず、むしろ心理的葛藤が激化しているのが現状である。2010年から香港の小学生に中国人としてのアイデンティティ意識を強制的に植えつける「愛国教育」が実施されたが、香港人からは「洗脳教育」として激しい反発を受け、結局中国は撤回せざるを得なかった。

幼稚園で中国国歌が流れると子供たちが見知らぬ顔で大笑いするという光景は、香港人のアイデンティティがイギリス植民地時代に形成されたものであり、中国国歌を歌い国旗の前で敬礼することに慣れていない現実、香港人の文化的・心理的な距離感を如実に表している。

幼稚園で歌う子供たち
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それにもかかわらず、香港における中国化は急速なスピードで進行している。中国との人的交流が活発化し、香港を訪れる中国人は返還直後の約5倍まで急増した。経済関係も急速に統合されつつあり、2003年には自由貿易協定である「経済緊密化協定(CEPA)」が締結され、9回にわたる補完協議を通じて経済協力の範囲が拡大された。

言語面での変化も著しい。香港には「両文三語」という概念があり、中国語と英語の二つの文章、英語・広東語・普通語の三つの言語を指している。