27歳のときに経験した苦い失敗

――取引での失敗はありますか?

【近藤】いまでも、「私は悪くない」と思っている失敗があります。27歳のときでした。まだ、ビールを自動販売機で売っていた時代。アサヒの自販機には、アサヒグループの商品だけを入れるという方針を会社は掲げました。ところが、私の担当エリアにあった「スーパードライ」をたくさん売る有力な酒屋さんは、「コカ・コーラ」や「ポカリスエット」も自販機に入れて売っていたんです。10台以上の自販機で、です。

――現場の営業担当とすれば、困りますよね。板挟みです。それで、どうしました?

【近藤】何度お願いしても、聞いてもらえない。そこで、私は言いました。

「分かりました。それならば、(自販機を)全部引き上げます」、と。

すると、酒屋さんの社長は激怒しました。人って、こんなに怒るのだと思うくらいに。結局、私ではどうすることもできずに、支社長が謝罪して、何とかことを収めた。もちろん、私は支社長からも、叱られました。自販機はそのままで、他社の飲料も売り続けた。

――その失敗から、何を学びましたか?

【近藤】お客様の立場になって、営業は仕事をしなければいけない、ということです。若気の至りだったのかも知れません。でも、繰り返しますが「自分は正しかった」といまでも思い続けています。

青色をしたアサヒの自販機に、赤色の缶コーラが入っているわけで、自販機の利用者のなかには、ブランドを誤認する人も現れてしまう。「お客様」を取引先と見るのか、最終消費者として捉えるのかで、考え方も行動も変わる。
この経験で、営業における仕事の考え方が改まったという。
撮影=遠藤素子
27歳の時の失敗は、営業における仕事の考え方を改める契機になったという。

「女性を信用しない」に闘志がわく

――この事例ともおそらく重なると思いますが、90年代は女性であるということで、営業をしていて何かと厳しかったのではないでしょうか?

【近藤】まったく相手にされないことは、ありましたよ。「何しに来たの」とか、「女性の営業がきて、大丈夫なの」とか。目を合わせてくれない人もいた。「女性を信用しない」と言い張る相手に、何度も遭遇したんです。

そんなとき、私は攻めの姿勢で臨みました。前へ前へと攻め続けると、相手の意識は変わっていきます。これが楽しいんですよ。営業の醍醐味です。

――90年代までは男性中心のビジネス社会でした。取引先との接点となる営業職は、特にそうだったと考えます。あれから30年以上が経過して、ご自身の立場も変わったわけですが、日本のビジネス界は女性が活躍できる形に変わりましたか?

【近藤】90年代と比較すれば、ずいぶん改善されたと思います。特にリーダーである経営者の皆さんの考え方は、変わってきた。女性を軽視しない新しい世代の経営者も現れてきました。

でも、完全に企業社会が変わったのかと言えば、そうではない。「女性だから……」、「女性は信用しない」という男性は、いまでもいると思います。仮に、そういうタイプのリーダーに会ったなら、私は楽しくなります。毎日攻めて、攻めて、考え方を変えさせてやる、と闘志がわくから。