電話対応という仕事は、企業によっては「新人さんの仕事」とされているようです。ですが、お客様の大切な時間を無駄にしてはいけないという考えから、創業期の壱番屋では決して「入ったばかりの新人さん」には電話を取らせませんでした。相手の時間を無駄にせず、かつ好印象を与えられる対応ができると認められた人から、電話に出ることが許されていたのです。

実は私も壱番屋に入社したての頃、電話対応で創業者の宗次徳二に注意されました。

かかってきた電話に出たところ、相手はお取引先で、こちらの担当者は不在。そのため、用件をメモし、復唱したうえで、もう1度相手のお名前と社名を確認して電話を切りました。自分としては相手に失礼のない無難な対応だと思ったのですが、それを聞いていた宗次がピシャリ。「電話に出るのはまだ早い」と言われました。

というのも、当時は電話の相手に名前を聞き直すのはご法度に近く、それこそ声を聞いただけで相手がわかり、担当者に素早く取り次ぐことが当たり前だったからです。私がそのとき行った、いわゆる「丁寧だけの電話対応」は、自己満足でしかなかったというわけです。

たしかに、スムーズに担当者に取り次いでもらえたり、担当者が不在でも用件を理解しているとわかる対応を受けることで、安心感は増していきます。電話をかけただけで「お世話になっております、××様。営業の△△ですね」と対応してもらえたら、「自分は覚えられている」と実感できます。それが相手が望む「特別感」になるのです。

スタートラインでいかに早く相手を知り、対応できるかで、電話は長くも短くもなります。そして、常にスムーズな電話対応を続けることが、企業に対する信頼感につながっていくのです。

日本一のプロ秘書が教える「一流のおシゴト」
「自分は覚えられている」という実感は、相手が望む「特別感」になる

カレーハウスCoCo壱番屋(株式会社壱番屋)創業者(宗次夫妻)秘書
中村由美

コンサルタント会社の社長秘書を経た後、当時まだ100店舗の中堅企業だった株式会社壱番屋に入社。秘書の経験を買われ、社長秘書に任命される。急成長の壱番屋において創業者・宗次徳二氏をはじめ、3代の社長に仕え、トップの側で上場も経験する。中小企業の秘書実務と上場企業の秘書実務の両方を知る数少ない人物。日本秘書協会(元)理事、ベスト・セクレタリー、日本秘書クラブ東海支部(元)役員、秘書技能指導者認定、サービス接遇指導者認定。
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