仕事相手と電話で話をするときは、会って話をするときよりも注意が必要です。なぜなら、電話では相手の顔が見えず、状況もわからないからです。プロの秘書は、相手の時間を無駄にせず、「感じのいい」電話ができます。
最近は誰でも携帯電話を持っているので、いつでもどこでも電話がつながります。便利なことではありますが、実は厄介な状況でもあります。というのも、仕事相手から電話がかかってくれば、誰でも反射的に電話に出てしまいます。しかし、本心では「このタイミングでこの人からかかってくるなんて……」と思っていることもあるでしょう。実は仕事が立て込んでいて、「できれば早く切り上げたい」という場合もあるはずです。
そのため、こちらから電話をかける場合は最初に「今、お時間宜しいでしょうか」と聞きましょう。もし「大丈夫です」と言われても、電話は極力短めに。ダラダラと話すのは、コスト的にも時間的にもロスになります。
電話を短く済ませるには、用件を明確にしておく必要があります。何の準備もせずに折り返しの電話をかけて、「どのようなご用件でしたか?」と聞いたり、間違っても「自分で調べるのが面倒だから」と気軽に問い合わせの電話をかけるようなことがあってはいけません。さらに、相手の顔を見て話せない電話では、明瞭な発音を心がけ、数字の「1」は「イチ」。「7」は「ナナ」と発音するなど、聞き間違いの多い単語にも注意します。会話をテンポよく運ぶためには、特殊な専門用語や、マニアックな略語なども避けるべきでしょう。わかりやすさが重要です。
「承知しました。明日の『ナナ時』に御社ですね」などと要点を復唱して、こちらが正しく内容を理解していることを伝え、相手を安心させる気遣いも大切です。
また、手早く電話を切ることばかりを考えて、畳みかけるような早口になってもいけません。聞き違いなどのミスが生じやすくなり、肝心の用件が伝わりづらくなってしまいます。相手に忙しくない印象が残るのもマイナスポイントです。
顔が見えない状況だからこそ、口調は対面で話すとき以上に心を込めて、明るく丁寧に。マメに相づちを打ちながら頷き、「お願いします」という言葉と同時に頭を下げる。明るい話題のときや御礼の言葉は、軽く微笑むといいでしょう。言葉に動作や表情を伴わせることで、実際に姿は見えなくても気持ちが伝わります。
便利なツールほど、気持ちよくコミュニケーションをとるためには気遣いが必要なのです。
日本一のプロ秘書が教える「一流のおシゴト」
「承知しました。明日の『ナナ時』に御社ですね」と復唱する
中村由美
コンサルタント会社の社長秘書を経た後、当時まだ100店舗の中堅企業だった株式会社壱番屋に入社。秘書の経験を買われ、社長秘書に任命される。急成長の壱番屋において創業者・宗次徳二氏をはじめ、3代の社長に仕え、トップの側で上場も経験する。中小企業の秘書実務と上場企業の秘書実務の両方を知る数少ない人物。日本秘書協会(元)理事、ベスト・セクレタリー、日本秘書クラブ東海支部(元)役員、秘書技能指導者認定、サービス接遇指導者認定。