「イランを守れなかった大国」という負のイメージ
ロシアの損失は経済だけではない。より深い傷は、同盟国を守れない大国というイメージである。
2025年1月に配信されたAP通信の記事によれば、ロシアとイランは包括的戦略的パートナーシップ条約を結んだ。20年条約で、貿易、軍事協力、科学、教育、文化まで幅広く含む。ただし北朝鮮との条約と異なり、侵略を受けた場合の相互支援は想定していない。
4月8日に配信されたロイターの記事も、同条約が軍事・安全保障上の脅威への協議や共同軍事演習を含むと報じた。法的には、ロシアがイランを軍事的に守らなくても条約違反とは言いにくい。
しかし政治的には痛手である。3月8日に配信されたAP通信の報道によれば、ロシアは米国とイスラエルの攻撃に怒りの言葉を発したが、中東の同盟国を支える目に見える行動は取っていない。情報提供の可能性は報じられているが、それは「守れる大国」という看板の回復には足りない。
本当の敗者は「信頼」を失ったロシアだ
したがって、イラン戦争でロシアは漁夫の利を得たとは言えない。たしかに、原油高で税収は増えた。制裁猶予で輸出の余地も広がった。その点だけ切り取れば、プーチン政権は得をしたように見える。
だが、13兆円という数字の裏側では、別の現実が進んでいる。主要輸出港は攻撃され、貯蔵能力は削られ、増産能力には疑問符がつく。制裁猶予は一時的で、欧米の反発を呼んでいる。日本やアジアの需要家はロシアだけでは救われず、むしろ調達先の多角化を急ぐ。さらにロシアは、包括的戦略的パートナーであるイランを守れない姿を世界に見せた。
プーチンが手にしたのは、相場が荒れた局面の一時的な現金収入である。失ったのは、安定した供給国としての信用と、反米陣営の盟主としての看板だ。石油価格は下がれば消えるが、同盟国を守れないという印象は残る。13兆円という数字は本当にプーチンの勝利を意味するのだろうか。その答えは明確だ。
これは勝利の領収書ではない。ロシアの弱さを映す診断書である。そう考えれば、イラン戦争の本当の敗者は、原油高で笑っているように見えるロシアだと言えるのである。


