裏切られた「ファーストクラス」の夢
昨年10月、母と妹に再会するためチケットを買ったという、30歳ソーシャルワーカーのショーンテ・クロスリーさんも、“被害”に遭った利用者の一人だ。
デトロイト―アトランティックシティ間のフライトを予約したが、フィラデルフィアでの乗り継ぎ以降がバス便だった。バス移動になることには、全く気づいていなかったという。
そればかりか、ファーストクラスへの有償アップグレードを希望するか尋ねる確認メールまで届いていた。
米ワシントン・ポスト紙に彼女は、「バスでファーストクラスにアップグレードするってこと?」と戸惑いをあらわにする。
細部までを見ればたしかに、機体タイプの欄に「バス」との表示はあった。しかし彼女は航空会社がバス便を販売していること自体を知らず、バス移動は寝耳に水だったという。
工事会社を経営する49歳のパトリック・キーガンさんは、航空会社以外の予約サイトでラスベガス行きのチケットを購入し、念願のファーストクラスを予約。だが、最終区間がバス便であることは、実際に乗るまで気づかなかった。
「総額と所要時間だけをざっと見ていました」と語るキーガンさん。彼は、「朝5時、てっきり飛行機に乗れると思っていました」と振り返る。バス移動の注意書きはあったが見落としており、搭乗の段になって建物の外に出たことで初めて異変に気づいた。
「飛行機に関してはアメリカンは素晴らしい仕事をしてくれる」という彼だが、「ただ、バスだけはご免だ」と加えた。
アメリカで広がる「航空便のような」バス
彼らを驚かせた仕組みの正体は、アメリカン航空と提携する「ランドライン(Landline)」というバスサービスだ。
2019年に創業しており、主要ハブ空港から約200マイル(約320km、東京―名古屋間に近い距離)圏内の中小都市なら、飛行機よりバスのほうが理にかなうという割り切りから生まれた会社だ。
米旅行情報サイトのポインツ・ガイがその歩みを伝えている。最初に手を組んだのはサン・カントリー航空。同年、ミネアポリスで運行を開始した。2021年にはユナイテッド航空もデンバー路線で加わった。
ただ、初期には厄介な壁があった。どちらのハブ空港でも、バスが着くのはセキュリティゾーンの外側、いわゆる「ランドサイド」(一般エリア)だ。乗客はバスを降りてから改めて保安検査を受けなければ、乗り継ぎ便には搭乗できない。せっかくバスで空港に直行しても、保安検査の列に並び直す手間がかかり、乗客はその利便性をほとんど実感できなかった。
2022年にアメリカン航空との提携を開始していたランドラインは、翌2023年にこの壁をついに破る。セキュリティゾーンの内側、いわゆる「エアサイド」(制限エリア)だけで乗り降りするバスを初めて投入し、フィラデルフィア―アトランティックシティ・アレンタウン間で運行を始めたのだ。

