「第二のエンハーツ」を生み出せるか

今後の注目は、がん治療薬分野で世界トップを目指す戦略が、期待通りに成功するか否かだ。2024年度、第一三共の売上高は約1.9兆円、がん治療薬世界トップのメルクは9兆円台だった。トップとの差は大きいが、今後の研究・開発の展開次第で第一三共が上位に食い込む可能性はあるとの見方もある。

エンハーツの競争力の高さは、重要な要件である。現時点で2033年に米国、2033年から2035年に欧州で、エンハーツは特許期限を迎えるようだ。エンハーツの臨床成績は予想を上回ったとの報告も多い。ADC創薬技術を応用したイフィナタマブ デルクステカンなどのパイプライン(新薬候補)の開発も進んでいる。

エンハーツで獲得した収益を、研究開発の加速、内外での買収に配分する。非中核資産の売却も加速する。それにより、エンハーツに続くがん治療薬を実用化できれば、第一三共のシェアは高まると考えられる。現状、第一三共の収益はエンハーツ頼みとの見方もある。収益源の多角化は急務だ。

中国も参入し、業界競争はますます熾烈

一方、見逃せないリスク要因もある。一つは、がん治療薬分野の競争が熾烈なことだ。米ファイザーは、第一三共に特許訴訟を起こしたシージェンを6兆円程度で買収した。アストラゼネカも、独自にADCのパイプラインを拡充した。

中国は国家総力を挙げ、バイオ医薬品の創薬体制を引き上げた。2024年まで2年連続で、中国のがん治療薬の臨床試験(治験)数は、世界トップだった。エンハーツの有効性は高いといわれているが、こうした点を確認すると、今後、第一三共にとって、後続治療薬の開発の重要性は極めて高い。

第一三共が、がん治療薬分野で有力メーカーと伍して戦うためには、経営陣は常に、高い成果を求められることになる。そのために欠かせないのは、買収や財務管理の専門家を増やし、意思決定と事業運営のスピード引き上げることだ。

企業が長期的な成長を目指すためには、成長可能性の高い分野に出ていくことは必須の条件だ。ただ、それを実行することは、口で言うほど簡単ではない。第一三共の経営陣が、機を逃さずに買収や提携戦略を実行し、リスク管理の体制を拡充することができれば、同社が世界の有力メーカーの仲間入りすることは夢ではないはずだ。それが実現すると、わが国の経済にとって大きな一歩になるはずだ。ぜひ、期待したい。

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