あえて「がん治療薬」を選んだ理由

今回、がん分野への選択と集中のため、市販薬事業をサントリーに売却する。サントリー自身も過去、医薬品開発に参入したものの、思うように成果が出なかった経緯がある。サントリーとしては、健康意識の高まりに対応するため医薬品分野に再参入することになる。

第一三共が、がんの治療薬分野に集中する要因の一つは、成長期待の高さだ。同社によると、2029年まで、世界のがん治療薬市場は11~14%の成長率が予想されている。免疫疾患、糖尿病、心疾患、中枢神経疾患の領域に比べ、成長期待は高い。日米欧に加え、中国など新興国でもがん治療薬の需要は伸びている。

また、近年、第一三共は、がん治療薬分野で高い実績を上げた。主力商品は、抗体薬物複合体(ADC)と呼ばれる、がん治療薬の「エンハーツ」や「ダトロウェイ」だ。2019年12月、米食品医薬品局(FDA)は、想定よりも早い速度でエンハーツを承認した。その後、エンハーツの需要は急速に拡大した。

抗がん剤治療を受ける患者
写真=iStock.com/FatCamera
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有力企業も評価する第一三共の創薬技術

エンハーツ成功の裏にあったのは、第一三共の創薬技術だ。抗体薬物複合体とは、がんの細胞に対する抗体と、細胞を破壊する薬剤を結合したバイオ医薬品を指す。抗体と抗がん剤を連結する物質をリンカーと呼ぶ。抗体部分は、がん細胞特有のたんぱく質と結合する。結合した後、細胞内に抗体が入り、内側からがんの破壊や縮小を行う。

第一三共は、抗体・抗がん剤の治療とセットで、リンカーや結合物質(合わせてプラットフォームという)の研究開発体制を拡充した。研究を重ねた結果、同社のADC治療薬は、競合製品の2倍近い抗体・抗がん剤を結合物に搭載できるといわれている。その分、治療効果は上がると考えられる。

また、第一三共は、世界の大手製薬企業よりも先に、薬剤とプラットフォームを特許で囲った。こうした点を評価し、英アストラゼネカは第一三共と提携した。ADCがん治療薬分野での新薬開発、競争力向上をめざし、同社は、ジェネリック医薬品事業、不動産、政策保有株式の売却に加え、市販薬事業も手放した。