外交上の友情より国民経済を優先した
イタリア政府は「二国間の基地使用協定の規定に従った」と説明したが、トランプ政権側は当然受け入れると考えていただけに、「メローニの裏切り」に近いものに感じられたはずだ。
イタリアは、ホルムズ海峡問題でも慎重姿勢を崩していない。イランが事実上閉鎖した同海峡は世界の石油輸送量の約2割が通過する重要海域であり、その混乱はエネルギー輸入依存度の高いイタリア経済を直撃する。
トランプ大統領が同盟国に「自分でエネルギーを取りに行け」と迫るなか、欧州各国はたしかに軍事関与に慎重である。
ローマ大学ルイス校の政治学者フランコ・パヴォンチェッロ教授は「イタリア政府は欧州の同盟国に対して、アメリカの言いなりとは見られるわけにはいかなかった。それは国内政治にも欧州外交にも深刻な影響を与えるからだ」と分析している。
ここで重要なのは、メローニ首相が「反米」に転じたわけではないことだ。メローニ首相は対ロシア制裁を支持し、中国包囲網にも積極的な姿勢を示してきた。
だが、中東危機となると話が変わる。エネルギー価格の高騰は家計・企業・財政のすべてを直撃し、政権の生命線である国民生活に即座に影響を与えるからだ。外交上の友情よりも、国民経済の現実が優先されたのだ。
教皇攻撃という「越えてはならない一線」
軍事協力拒否に続いて、決定的な亀裂をもたらしたのが教皇レオ14世をめぐる発言だった。
トランプ大統領は、イランへの軍事作戦に対して「神はいかなる戦争も祝福しない」と語った教皇を、「戦争について何もわかっていない」「核の脅威を理解していない弱い人物だ」とSNSで攻撃した。
メローニ首相はこれを「受け入れられない」と公然と反論し、「教会の指導者が平和を求め、すべての戦争を非難することは正当であり、自然なことだ」と述べた。
イタリアにおいて、ローマ教皇はたんなる宗教的権威ではない。カトリックとイタリア政治の深い結びつきは歴史的に深く、今もなおイタリア国民のカトリック人口は約7割を超えている。
教皇への攻撃に同調すれば、中道右派から左派まで、政党の左右を問わず激しい批判を浴びることになる。野党の民主党(PD)書記長エリー・シュライン氏は「イタリア国民として団結すべき問題だ」と与野党を超えた連帯を呼びかけており、メローニ首相がここでトランプ側に立てば、格好の攻撃材料を与えることになっていた。
メローニ首相の「受け入れられない」発言は、表面上は道徳的な信念の表明であるが、実際は高度に現実的な政治判断だった。教皇問題は、イタリア政治における文字どおりの「禁忌的存在」である。

