「シーラカンスが獲れたぞ!」

僕は2022年6月、中東ヨルダンに2週間ほどの撮影出張に出かけたことがある。現地で活動する日本人を映像におさめる仕事だった。できる限り事前に撮影スケジュールを組んだが、どうしても現場対応でしのぐしかない場面も多かった。

日本国内での撮影だと、それこそ分刻みの予定を記入している香盤表通りに動けるのだが、海外は勝手が違う。「出たとこ勝負だ」と腹をくくって前進するしかなかった。

44年前だと、日本出発前からコモロ政府に依頼し、漁師にシーラカンス捕獲を依頼することは到底無理だったろう。実際に顔を見せてお願いしないと、ことが進まない。誠意を見せて信頼されて初めて動く世界なのだ。

ここまでの会話で堀田さんの口も滑らかになってきた。シーラカンスの撮影秘話を聞き出すタイミングと定め、捕獲されて運ばれてきた12月31日のことを聞いた。

「これは本当に予想もしない瞬間にやってきたのです。その日も、いつものごとくハンサンブの村に下り、漁師が釣った魚の確認をしました。どんな種類かと大きさを記録する様子を、僕は16ミリカメラで撮りました。

それが終わり、『もうすぐ帰国だな』というゆったりした雰囲気の中、宿舎に戻っていった。すると、向こうから『おー!』という声が聞こえた。隣の小林さんが『叫んでいるけど、何だろうな』と反応していた。よく分からないまま少し早足で向かうと、今度ははっきりとした声で『シーラカンスが獲れたぞ!』と聞こえたんです。

みな『えっ!』と驚いて、駆け足になった。たどり着いて宿舎の2階に上がった。広間には、現地のコモロ人やフランス人がいっぱいいた。『どうしたんだ?』と聞くと、『シーラカンスが獲れたんだ!』と」

魚のどでかいのというより、怪物

堀田さんの口調が熱を帯び、ベテランカメラマンならではの描写が始まった。

「前を覗くと、まさにそれが、どーんとあった。魚のどでかいのというより、怪物と言ったらおかしいけど、そんなほうが近い。そして、オーラがぶわーっと立ち上がっていた。シーラカンスから天井にかけてね。そこにいる人たちも呆然としていた。

事態が呑み込めてきた頃、鈴木さんらが採血を始めた。帰る直前だからフィルムはほとんどなくなっていたけど、こういう時のためにスクーピックを持っていた。

ヨーテボリ自然史博物館のシーラカンス模型
ヨーテボリ自然史博物館のシーラカンス模型(写真=Gunnar Creutz/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

スクーピックには3分ほど撮影できる100フィートのフィルムを使うのだけど、これが10本分あった。それが良かった。そのうち1本を準備し、カメラを構えた。そして、こう鈴木さんに声をかけたんだ。

『とにかくこれを克明に撮る。頭の先からお尻の先まで克明に撮る。そのためには、どういうところをどういう風に見せたいんだ。言ってくれ』」