医師が、診察の際に、必ず患者の目を確認するのはなぜか。内科医の名取宏さんは「じつは目にはさまざまな病気のサインが現れるので、日頃から自身や家族の目をチェックすることは重要だ」という――。
目のクローズアップ
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アナログな「身体所見」の大切さ

誰でも、病院や診療所で、医師から次のような診察を受けたことがあるでしょう。

下のまぶたを親指でちょっと下げて見て、口の中をのぞき、首の下のあたりを触り、聴診器で胸や背中の音を聞く……、というもの。こうした診察によって得られる情報は「身体所見」と呼ばれ、一定の手順に沿って集められます。だから、どこでも同じように行われているんですね。

もちろん、この身体所見だけで必ずしも診断が確定するわけではなく、何らかの検査が必要になることも少なくありません。しかし、身体診察は迅速で、非侵襲的で、コストもかからない、とても優れたスクリーニング手段といえます。

現代の医療現場では、血液検査、CT、MRI、超音波検査といった高度な検査が目覚ましい発展を遂げました。しかし、どれほど技術が進歩しても、医師が最初に行うのは、自分の目で見て、手で触れ、耳で聴くというアナログな行為なのです。

患者の目やまぶたの裏を診る理由

では、医師が比較的早い段階で確認する「目」ですが、なぜチェックする必要があるのでしょうか。

通常、私たちの体内の血管や粘膜は皮膚に覆われていて、外から直接見ることはできません。しかし、目は、例外的に体の状態が「色」として現れやすい特別なところ。医師が、患者さんのまぶたをそっと下げて観察しているのは、まぶたの裏の「眼瞼がんけん結膜」の色なのです。

通常なら赤いはずのまぶたの裏が白っぽく見えるときは、貧血が疑われます。赤みの正体は血液中の赤血球に含まれているヘモグロビンで、これが減ると結膜の色は薄くなるのです。その場合は血液検査をして、血液中のヘモグロビン濃度が一定値以下であると貧血だと診断できます。

貧血は動悸や息切れ、疲れやすさなどの症状を伴いますが、自覚症状に乏しいことも少なくありません。また、症状があっても、加齢や疲労のせいだと受け止められ、医師に伝えられないこともあります。その結果、目の観察で気づく機会を逃せば、採血検査に至らず、診断の遅れにつながることがあるのです。