北朝鮮に歩み寄ったブッシュに猛抗議
中川財相の真骨頂はポールソン会談後から発揮されます。
11日午前、ホワイトハウスではブッシュ大統領も加わってG7の財務相らと危機対策会合が開かれました。
そのあと、大統領執務室に面した南庭のローズガーデンではホスト役のブッシュ大統領の歓迎スピーチでレセプションが始まりました。
そして、しばし懇談というときになったとき、衝撃的なニュースが中川財相の耳に飛び込んできました。米国が北朝鮮に対する「テロ国家指定を解除する」という決定です。まさに寝耳に水です。
中川財相は政治家として横田めぐみさんら北朝鮮による日本人拉致問題の解決に執念を燃やし、ブッシュ政権に対しては対北朝鮮の核と合わせて拉致問題の交渉を求め、ふたつの問題の同時解決に向け強硬策の継続を求めていたのです。
中川財相は重大ニュースの報告を受けると、ただちにゲストたちと歓談しているブッシュ大統領に向かってダッシュしました。大統領には前日にも会っており面識があり、大統領も振り向きます。
「大統領、北朝鮮に対するテロ指定解除とはどうしてですか。日本人などの拉致問題をどうするつもりですか」と迫る中川財相の剣幕に大統領はすっかり慌てました。「あそこにいるコンディ(コンディーサ・ライス国務長官)に聞いてくれ」と逃げ出したのです。
ペンタゴンの元高官と一対一で会談
中川財相が帰国して1週間後の2008年10月20日午後、東京・霞が関の財務省本館。財務大臣室で中川財相は訪ねてきた米国防総省(ペンタゴン)元高官のG氏と会いました。そのときの通訳を私が引き受けたのです。私は以前もG氏と中川さんとの面談で通訳を務めたことがありますから。それで、英語に堪能な財務省国際局担当官らが同席するだろう、と思って気楽に応じましたが、中川財相は財務官僚の誰ひとり、同席させなかったのです。
中川さん、G氏のいずれも本書執筆時点で故人になっています。したがって、前述のホワイトハウスでの緊迫したやり取りも、以下のG氏との話し合いも私以外、知る者はいませんから、本編はまさに貴重な歴史証言ともなります。
中川財相はG氏に向かって、ホワイトハウスでのブッシュ大統領への抗議の詳細を打ち明けたあと、おもむろにブッシュへ氏の伝言を託しました。「日本は黙ったままアメリカのキャッシュ・ディスペンサー(現金自動支払機)にはなるつもりはないとね、必ず伝えてほしい」と念を押したのです。
