アメリカ「財務省が説得してくれる」

頼みの綱が日本の財務省です。中川財相は、10月11日にワシントンで開催されることになった先進7カ国(G7)、新興国を含めたG20の財務相・中央銀行総裁会議出席のため日本を発ちました。中川財相が現地に到着したのは米東部時間の10日、会議の前日です。早速、ポールソン長官は中川財相と財務長官室で会いました。

ポールソン氏の回顧録“On the Brink”によると、長官が「三菱に救済に応じるように話してくれませんか」と頼み込むと、中川財相は「注視していく」と返事をしたそうです。長官は「『これ以上期待できないほどありがたい言葉だ』と安堵した」と打ち明けています。

この口ぶりからして、中川財相は確約したわけではありませんでしたが、東京の財務省幹部が日米財務相会談を受けて、三菱UFJの説得に当たると米側は確信していたのです。日米の当局間では中川訪米に当たり、事前に三菱UFJによるモルガン救済に関する綿密な打ち合わせが行われていたからです。

ウォール街を救った「90億ドル」小切手

ポールソン・中川会談の3日後の10月13日、「モルガン・スタンレー宛90億ドル」と記した三菱UFJ銀行振り出しの小切手が、ニューヨークの法律事務所で待機しているモルガン・スタンレーの首脳に手渡されました。当日は「コロンブスの日」の祝日で銀行業務は休み、三菱UFJ銀行は急遽きゅうきょ小切手で払い込むことにしたのです。

三菱UFJ銀行米州企画部長中島孝明氏ら6人は、当時の円換算で1兆円近い小切手を封筒からとり出し、その巨額の数値が入った小切手がカメラに収められました。ウォール街が救われた瞬間です。

中川財相は実際に、米側の言いなりになったわけではありません。中川財相はポールソン財務長官やバーナンキFRB議長に対して、公的資金投入による金融危機対策を厳しく迫ったのです。これに対し、米国側は「危機を乗り切るためには各国が協調し、すべての経済的・金融的手段をとるべき」と、国際協調をあてにするばかりだったのです。