「米国の現金自動支払機にはならない」
世界最大の国際収支赤字国で最大の債務国アメリカは外部からの資本流入に頼っていますが、なかでも日本は世界最大のスポンサーです。しかも、リーマン・ショックで米国からは資金が逃げ出し、ブッシュ政権は火消しに大わらわで、かの共産中国にまでポールソン財務長官が頼ったのです。
ポールソン長官は前出の回顧録では、ブッシュ大統領が胡錦濤党総書記・国家主席に直接電話してモルガン・スタンレーへの救済出資を頼むことまで考えた挙げ句、さすがに止めたことまで明かしています。その点、日本の三菱UFJ銀行が財務省の後押しを得て応じてくれたお蔭で、窮地からひとまず脱することができました。
しかし、中川財相は拉致問題を素通りした米国の「裏切り」に対し怒りが収まらず、「現金自動支払機にはならない」とブッシュ大統領に伝えよというのです。
タブーと知りつつ、一言一句そのまま訳した
一方、日本の財務省エリートたちはまさに米国財務省の出先同然で、1985(昭和60)年のプラザ合意や1987(昭和62)年のルーブル合意、そしてブラックマンデー以来、ひたすら米国の意向に従ってきました。そんな官僚たちに中川財相が不信感を抱いていたのは無理もありません。
大統領への伝言を託す米国防総省元高官との会合に官僚を同席させなかったのは、「この発言は財務官僚たちに差し止められるか、妨害される」と思ったからに違いありません。
無論、私もそのまま通訳してよいか、一瞬ですが、躊躇しました。日米関係を長く洞察してきた者として、同発言がタブーであることはよくわかっています。そして、中川財相のほうに目をやると、「構わん、そのまま訳してくれ」といったしぐさを送ってきます。
一言一句、逃さぬように訳しました。
すると、G氏は神妙な面持ちで、片言の日本語で返しました。「わかりました。ブッシュ大統領に会う機会があるので、必ずこの通り伝えます」と。G氏は日本語がかなり理解できるのですが、正確な理解のための補助として旧知の私を頼りにしてくれました。
