音楽ユニットYOASOBIは「夜に駆ける」で大きな注目を集めた。1曲の“バズ”で終わらず、人気アーティストとしての地位を築けたのはなぜか。音楽評論家の柴那典さんは「YOASOBIの辿った道からは『偶発』を『必然』に引き寄せるための戦略を読み解くことができる」という――。

※本稿は、柴那典『ヒットの復権』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

Coachella Music Festival 2024の幾田りら
写真=©Daniel DeSlover/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ

「チーム・ビルディング」の勝利

2020年の最大のヒットとなったYOASOBI「夜に駆ける」も、世の中のルールが書き換えられた象徴の一曲となった。

やはりこの曲もコロナ禍のステイホーム期間に大きく伸びた。ビルボードジャパンの「Hot 100」で初の首位となったのは「香水」が1位となった翌週の6月1日付チャートだ。その後も勢いはとどまらなかった。2020年の「Hot 100」年間チャートでは首位を獲得。初めての「シングルCDをリリースせずに年間首位を獲得した楽曲」となった。

なぜ「夜に駆ける」はヒットしたのか? 瑛人が「完全なるインディペンデント」の奇跡だとするならば、YOASOBIは「チーム・ビルディング」の勝利だ。彼らはソニー・ミュージックエンタテインメントのプロジェクトである。ディストリビューターもソニーのグループ会社であるThe Orchard Japanだ。コンポーザーのAyase、ボーカリストのikura、そしてスタッフであるソニーの屋代陽平氏、山本秀哉氏の4人がひとつのチームとして結束して動いていった。そこには、状況の変化に即応する、柔軟かつ機動的な意思決定があった。

「アルゴリズムの女神の微笑み」

本書の第二章で前述したように「夜に駆ける」の反響がYouTubeで最初に広まったのは2019年の年末のことだった。初動のきっかけは、やはり「アルゴリズムの女神の微笑み」だった。屋代氏と山本氏はこう語っている。

「Ayaseのチャンネル登録者数が一気に上がったタイミングがあったんです。1000人を超えてからどんどん増えて、すぐに1万人を超えた。そうするとYouTubeのアルゴリズム上『おすすめ』に出やすくなる。それが『夜に駆ける』の1カ月前くらいに起こっていたので、初動が底上げされていた。それは大きかったです」(山本)

「あとはTikTokで、年末から年明けにかけて『鬼滅の刃』のMAD動画に『夜に駆ける』が使われていて、子供たちのあいだで『鬼滅の刃』の曲だと思われていた瞬間がありました。それも一つのきっかけではあります」(屋代)