「水一滴でも県外流出させない」
まず、静岡県は2019年6月、リニア問題の議論についての疑問点をまとめた「中間意見書」をJR東海に送付して、その回答を求めた。
JR東海は同年7月、山梨、長野の両県境の工事については、「先行して掘削しなければならず、県境付近の工事期間中に、山梨県側に毎秒0.31トン、長野県側に毎秒0.01トンの湧水流出を想定している。できる限り湧水流出量を低減していく」と回答している。
そんな中、同年9月20日のリニア会議で、当時の難波喬司副知事(現・静岡市長)が、JR東海が県境付近の工事について説明している最中に、「全量戻せないと言ったが、これを認めるわけにはいかない。流域の利水者たちは納得できない。いまの発言は看過できない」などとかみついた。
この発言を受けた3日後の定例会見で、川勝知事(当時)は「湧水全量戻すことを技術的に解決できなければトンネルを掘ることはできない」「全量戻しがJR東海との約束だ」などと述べた上で、「静岡県の水一滴でも県外流出を許可できない」と宣言した。
これで、山梨県側だけでなく、長野県側への湧水流出もJR東海はちゃんと対応しなければならなくなった。ここから県外流出する湧水の「全量戻し」の長い議論が始まったのだ。
山梨側はクリア、しかし長野側は…
まず、県境付近に長い断層帯がはっきりと存在することがわかっている山梨県側へ流出する湧水が議論のテーマとなった。
山梨県側からの先進坑が静岡県境を越え、静岡県側の先進坑につながる工事期間中の約10カ月間に最大500万トンの湧水が流出するとJR東海は予測したが、簡単には解決できなかった。
川勝知事の強い反発が続き、JR東海は東京電力リニューアブルパワーの協力を得て、県外流出量と同量を大井川の東電・田代ダムで取水抑制を行ってもらい、大井川の流量を確保する「田代ダム案」を提案した。
川勝知事の辞職を経て、昨年6月2日の専門部会が、田代ダム案についてリスク管理、具体的なモニタリングなどすべてを了解したことで、山梨県境の水資源問題は解決した。
ふつうであれば、このあと長野県側への湧水流出の議論をすべきだった。
長野県側は山梨県側のような大きな断層帯は確認されていないから、JR東海は湧水の流出量は極めて少ないと見込んでいた。だから、静岡県は黙って議論から外してしまったのかもしれない。
一方、リニア工事差止訴訟の原告団は「さほど大きな断層帯はないという被告(JR東海)の見立ては甘い」と追及している。

