長野県境の水問題はまだ議論されていない
川勝平太前知事時代の2019年9月、静岡県は県境の山梨工区だけでなく、長野工区でのトンネル工事が大井川の水資源に影響しないようにする対策を示すよう、JR東海に求めた。JR東海は「県や専門部会の各委員に当社の考えを丁寧に説明する」などと回答していた。
専門部会でJR東海が説明したのは、山梨県側へ流出する湧水の対応についてのみである。約6年間掛けて議論を行い、昨年6月にようやくJR東海の説明を了承、これで静岡県は水資源の課題すべてが解決したと公表した。
ところが、長野県側へ流出する湧水への対応はこれまで一度も議論されていないのだ。
「スピード感を重視する」と繰り返した鈴木知事はまるで目をつむって、リニア着工許可に向けてひたすら邁進しているように見えた。どういうわけか、長野県境の水問題を無視してしまった。
JR東海にとっては鈴木知事の「英断」と言えるが、「命の水を守る」と訴えた川勝前知事を圧倒的に支持した流域の住民たちはそれでは納得しないかもしれない。
JR東海の“ある誤算”
南アルプスの地下約400メートルを貫通するリニアトンネルは、名古屋方面に向かうと山梨工区から上り勾配で静岡工区に入り、静岡工区から今度は下り勾配で長野工区へ入っていく。
静岡県のトンネル区間は約10.7キロだが、静岡工区の工事区間は約8.9キロと短くなっている。
山梨工区、長野工区が約1キロずつ静岡県内に入り込んでいる。これは作業員の人命安全のために、山梨、長野の両工区から上向き掘削を行うからだ。
このため、静岡県内の湧水が工事中の一定期間、山梨県側、長野県側に流れ出ていくのはやむを得ない。
そもそもJR東海は山梨工区、長野工区を約1キロずつ静岡県内に延長する計画を立てたとき、静岡県外に流出する湧水が議論になることなど想定していなかった。
と言うのも、県境付近の工事で山梨県側、長野県側へ流れ出たとしても、それ以上の量の湧水が静岡県内の山中に蓄えられているので、水収支解析では、「大井川の水の量は減らない」と予測していたからだ。
だから、JR東海はちゃんと説明すれば、静岡県に理解してもらえると考えていた。
ところが、2019年9月に事情が一変する。


