リニア問題がこじれた元凶

と言うのも、国の有識者会議で専門家は「ここは明確に地層がずれており、仮に断層が破砕されていると想定した場合、多くの出水となる可能性がある」と指摘したことを根拠にしている。

JR東海は長野県境では、測量や地表の観察による地質状況の把握しか行っていないから、山梨県境のように詳細なことは全くわかっていない。つまり、実際に掘削してみれば、破砕された断層帯があり、大出水につながる可能性を否定できないのだ。

畑薙断層帯周辺の破砕帯を象徴する大井川左岸の「赤崩れ」
筆者撮影
畑薙断層帯周辺の破砕帯を象徴する大井川左岸の「赤崩れ」

静岡県は、長野県側への湧水流出をちゃんと認識しているのに、昨年6月6日の国のモニタリング会議で、県担当者は山梨県側への湧水流出の対話が完了したことで、水資源問題すべてが解決したかのように報告してしまった。

モニタリング会議の矢野弘典座長が「関係者の尽力のたまもの、着工への手続きを進めるためにスピード感を持ちつつ、かつ丁寧に協議してほしい」などと絶賛したことで、鈴木知事の「スピード感」に拍車が掛かってしまった。

これでは表面的に解決したように見せかけて、事実をごまかしているに過ぎない。このようなごまかしがリニア問題の真相をわかりにくくしてきた。

だから、3月27日の新聞各紙は静岡県の発表通りに、すべての課題が解決したかのように報道してしまったのだ。

流域住民の不安を放置していいのか

反リニアに徹した川勝前知事は事あるごとに「大井川流域の60万人の命の水を守る」を唱えた。いまでも多くの県民が川勝前知事の主張をそのまま信じ込んでいる。

となれば、いくら量が少ないというJR東海の見込みであっても、「湧水全量戻し」の議論をおざなりにはできなかったはずだ。鈴木知事が長野県側への湧水流出を無視したことで、流域住民らのJR東海への不信感が高まるかもしれない。

リニア補償協定を結んだ鈴木知事。左は丹羽JR東海社長、右は水嶋国交省次官
筆者撮影
リニア補償協定を結んだ鈴木知事。左は丹羽JR東海社長、右は水嶋国交省次官

図らずも、リニア工事差止訴訟の原告団が鈴木知事の「拙速」を明らかにしてしまったことになる。

それではどうすればいいのか?

鈴木知事が責任をもって「長野県側へ流出する湧水は微々たる量であり、問題にしない」と宣言すればいいのだ。

これまでの連載で指摘してきた通り、山梨、長野両県境付近のトンネル工事による湧水流出が大井川の水資源にもたらす影響は限定的であり、そもそも川勝前知事らの言い掛かりに過ぎなかったからだ。それでも、行政が一度「課題」として取り上げた以上、この問題を放置したまま着工許可へ進むのは無責任だろう。

本当に「スピード感を持った解決をしたい」のであるならば、鈴木知事は住民たちの不安を解消することに取り組まなければならない。

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