一人ひとりの強みを可視化する

スキルベース組織は、この「見えない」状態を打破し、一人ひとりの強みを「可視化」することからスタートします。

たとえば「営業力がある」という曖昧な表現ではなく、「顧客の課題を特定するヒアリングスキル」「データに基づく提案書作成スキル」「新規顧客との関係構築スキル」といった具体的な要素に分解して可視化します。

この取り組みは、すでに先進的な企業で始まっています。一例を挙げると、富士通では、全社員約12万人超(*)のスキル情報を可視化するシステムを導入しています。

*富士通 OneFujitsuプロジェクトの一環 富士通が目指す「人事業務改革」

社員は自身の専門分野や保有資格だけでなく、過去のプロジェクトで培った経験やスキルを登録し、それをAIが分析することで、社内の隠れた才能を発掘するしくみを構築しています。

これにより、社員は自分自身の強みと、まだ足りていない部分(スキルギャップ)を客観的に認識できるようになります。「なんとなくこの仕事は得意だ」という感覚を、「このスキルが自分の武器だ」という確信に変えることができます。これは、自己肯定感とモチベーションを高めるうえできわめて重要です。

50代事務職がDXプロジェクトに抜擢されたワケ

ある会社で、特定部門を対象とした「スキルの棚卸しワークショップ」を実施した際のことです。参加者の中に、長年、事務職として働いてきた50代の女性社員がいました。

彼女は当初、「私には専門的なスキルなんて何もありません」と、少し自信がなさそうな様子でした。

しかし、ファシリテーターが彼女のこれまでの経験を丁寧に深掘りしていくと、彼女が「ただの雑用」だと思ってこなしていた業務の中に、驚くべき価値が隠れていることが次々と見えてきました。

たとえば、営業担当が強引に持ってきた短納期の案件に対し、怒りの感情を示す現場責任者をなだめつつ、過去の類似案件のデータを引き合いに出しながら双方が納得する現実的なスケジュールの落とし所を見つけていたこと。

これは単なる“伝書鳩(メッセンジャー)”ではありません。「ステークホルダー・マネジメント(利害調整)」であり、「コンフリクト・マネジメント(対立解消)」のスキルです。

ホワイトボードに書き出された「スキル」を見た瞬間、彼女の表情がぱっと明るくなったのを覚えています。「これが私のスキルなんですね。これなら、ほかの部署でも貢献できるかもしれない」と、彼女は力強く語りました。

その後、彼女は全社的な業務改革(DX)プロジェクトの推進役に抜擢され、現場の暗黙知をシステムに落とし込むための「翻訳者」として、見事にその役割を果たしています。

スキルの可視化は、単なるデータ整備ではありません。それは、社員一人ひとりが自分の可能性に気づき、次の一歩を踏み出すための「エンパワーメント」です。