「とにかく繰り返す」イチロー

イチロー(1973~)

日本に「ルーティーン(日課)」という言葉を広めたのは、アメリカ大リーグで活躍したイチローだろう。

日本のオリックス・ブルーウェーブ時代に7年連続で首位打者を獲得し、日本人野手として初めて大リーグに挑戦。シアトル・マリナーズでは、ルーキーイヤーから新人王と首位打者、盗塁王、最多安打、MVP、ゴールデングラブ賞などを総なめにし、2019年に引退するまで大リーグ通算3089安打を達成した。

彼が驚異的なのは、これほどの記録を、長年にわたって安定して出し続けたところにある。常に安定したパフォーマンスを発揮し続けるには、野球そのものの鍛錬はもちろん、自身の体をよい状態で維持し続けなければならない。

そのイチローのコンディションを支えていたのが、日々のルーティーンである。彼の打席に入るまでの動きを見ていると、毎回寸分違わぬ準備運動をしてからバッターボックスに入ることに驚かされる。バットを立てた後に袖を引っ張る仕草は、お馴染みと言ってもいいだろう。

イチローのルーティーンは、試合前・試合後の行動にも及ぶ。彼は翌日のゲームの開始時間から逆算して、寝る時間、起きる時間、食事の時間など、すべてのスケジュールを決めている。年間の試合日程はシーズン開幕時にわかっているので、イチローの1年間の動きは、シーズン開幕と同時に自動的に決まっていたのだ。

シアトルマリナーズの本拠地であるセーフコ・フィールド
写真=iStock.com/Art Wager
シアトル・マリナーズの本拠地であるセーフコ・フィールド。

習慣は合理的でなくていい

こう見ていくと、イチローは毎年優秀な成績を残すために、苦労してルーティーンを守る求道者のようだが、そうではない。

マーティン・ラングらの研究によれば、日々の行動パターンが予測しやすいほど、ストレスや不安の揺れが小さくなることが示されている。決まった流れで行動することで、心の安定を保ちやすくなるというわけだ。

つまりイチローは、結果を残すために、苦痛に耐えながらルーティーンを守っていたのではなく、「いちばんストレスがない1日の過ごし方」を追求し続けた結果、自然とルーティーンが固まり、それを毎年繰り返していたのである。

ストレスフリーを目指しているから、栄養があっても嫌いな食べ物は基本的に口にしない。シーズン中に大好きなカレーや素麺をひたすら食べていたのは有名な話だ。イチローと同じく、大リーグで通算3000本安打を達成して殿堂入りを果たした大打者、ウェイド・ボッグスも、奇妙なルーティーンを持っていたことで有名だ。

彼は、毎日同じ時間に起床すると、試合前に必ずチキンを頰張り、ちょうど150本のゴロをさばき、必ず午後5時17分に打撃練習に入り、午後7時17分にダッシュを行っていた。敵チームが嫌がらせで球場の時計を狂わせたが、彼は正しい時間にルーティーンをこなしたという伝説もある。

彼らの習慣から学べるのは、ストレス緩和のためのルーティーンは、別に理にかなっていなくてもいいということだ。特に、重要な仕事などの前には、好きなものを我慢するのもストレスになるから、カロリーが多めの食事をとるなど、普段は我慢すべき行為をするほうが自然だ。ストレスを緩和して心の健康を確認するのがルーティーンなのだから、体の健康はいったん忘れてもよいのである。

ぜひあなたも、ストレスフリーだと自覚できる瞬間を積み重ねて、オリジナルのルーティーンを作ってみてほしい。