「戦争はしない」というから投票したのに…
怒りに燃えるのは、牧場主たちだけではない。多くのアメリカ国民が、アメリカに経済的損失をもたらす政策に失望している。主な批判の矛先は、突如始まったイラン戦争だ。
2026年2月末、アメリカはイスラエルとともに軍事作戦「エピック・フューリー(Operation Epic Fury)」を開始し、イランの最高指導者アリー・ハメネイ師を殺害した。すでに複数の米兵が命を落とし、紛争はなお続いている。
「新たな戦争はしない」と約束して2024年の大統領選を制したトランプ氏が、まさにその公約を破って開戦に踏み切った。
やりたい放題のトランプ氏に、ついに保守層も堪忍袋の緒が切れた。3月末、保守派の祭典に異質な空気が漂った。
テキサス州ダラスで開かれた保守政治行動会議(CPAC)は、MAGA運動の「総本山」とも呼ばれる。ところがこの年次大会の最終日、会場からは政権批判が相次いだとNPRは伝えている。
イラン攻撃からちょうど1か月のこの日、例年なら大会の締めくくりに演説するトランプ大統領の姿はなく、10年ぶりの欠席となった。J・D・ヴァンス副大統領も、元フォックスニュースキャスターのタッカー・カールソン氏も不在。いつもなら壇上を彩る面々が、軒並み欠けていた。
主役不在の会場で、支持者たちは怒りを隠さなかった。テキサス州出身の退役軍人、ジョセフ・ボリック氏(30歳)は、2016年からトランプ氏に投票し続けてきたが、もう支持しないと言い切った。
登壇者からも異論が飛び出した。元フロリダ州下院議員マット・ゲーツ氏は、戦争を正面から批判した数少ない登壇者の一人だ。「イランへの地上侵攻はアメリカをより貧しく、より危険にする」と述べ、ガソリンや食料の価格高騰を招くと警告している。
カリスマ指導者なきMAGA
トランプ氏への不満を契機に、結束が乱れ始めたMAGA連合。では、なぜトランプ氏の足元はこれほど揺らぎやすいのか。答えは、支持層の構成にある。
米地方紙のシカゴ・サンタイムズが引くエコノミスト/YouGovの世論調査によれば、「MAGA支持者」を自認する有権者は全体のわずか24%。トランプ氏に票を投じた層に限っても54%にとどまる。
この少数派の内実をさらに掘り下げたのが、同紙が紹介する民主主義推進団体「More in Common」の大規模調査だ。1万8000人超を8カ月にわたり追跡した結果、2024年のトランプ支持者はMAGAコア層(29%)、過度のポリティカル・コレクトネスを好まない反ウォーク保守層(21%)、主流共和党層(30%)、消極的右派層(20%)の4グループから成ることが判明した。
ポリティカル・コレクトネスはポリコレとも略され、人種や性別、宗教や障害の有無などによる差別や偏見表現を避ける考え方だ。一方で厳格に適用すると、まるで言葉狩りのようだとする反論もある。
調査が至った結論は、「連合であってカルトではない」。すなわち、MAGAは一人のカリスマの下でカルト的に強く結束した集団ではなく、動機の異なる集団がたまたま同じ旗の下に集まった寄り合い所帯にすぎないのだという。
例えば反ウォーク保守層は、トランプ氏個人への忠誠心というよりも、社会正義運動への強い反発を動機としてトランプ氏に投票したと分析されている。文化戦争でトランプ氏と利害が一致しているために支持したに過ぎず、経済政策や外交で期待を裏切られると離反しやすい特徴がある。
また、消極的右派層に至っては4人に1人が自らの投票を後悔していると答えた。一枚岩にはほど遠い連合が、「アメリカ・ファースト」という一語だけでかろうじてつなぎ留められてきた。その結束が、トランプ氏の繰り出すアメリカの利益に反する政策を契機に、揺らごうとしている。
