ネット検閲の下地作りではないかとの疑惑には、裏づけがある。米政府系国際放送局のラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティによれば、テストは昨夏にはもう始まっていた。常に通信が可能なホワイトリスト入りしているサイトには、携帯キャリア、親クレムリン系メディア、政府機関、EC(電子商取引)サイト、Odnoklassnikiや旧VKontakteのVKといった国産SNSが並ぶ。何を許可し、何を遮断したいか、その意図は一目瞭然だ。
法的な地ならしも抜かりないようだ。プーチン大統領は2月20日、連邦保安庁(FSB)の要請があれば通信事業者にサービス停止を命じられる法律に署名した。事業者は損害賠償責任を免除される。
同メディアが指摘するように、クレムリンは2012年のプーチン氏の大統領復帰以降、言論統制を段階的に強め、2022年のウクライナへの全面侵攻を機にさらに締め付けてきた。今回の署名もその一環だ。
ポーランドのシンクタンクである東方研究センター(OSW)は、前線の劣勢とロシア経済の低迷を前に、プーチン政権は政府系以外のメディアによる情報発信を封じたいのだと分析する。市民がSNSやメッセージアプリで横につながる機会を断ち、反体制運動の芽を摘むことも狙いのうちだ。
大統領補佐官の記者会見中にも…
皮肉なことに遮断を命じた側も、その混乱からは逃れられなかった。
3月上旬、プーチン大統領とトランプ米大統領の電話会談を終えた直後のことだ。クレムリンのユーリー・ウシャコフ大統領補佐官が記者団との電話会見に臨んだが、英通信社のロイターは、肝心の回線が少なくとも3回途切れたと報じている。
モスクワ・タイムズによれば、ドミトリー・ペスコフ報道官は大統領府が固定電話に切り替えたと認めた。
クレムリンから徒歩圏内の下院でも、議員たちは同じ目に遭った。議事堂のWi-Fiにも携帯回線にもつながらず、当局みずから普及を後押ししてきたメッセージアプリ「Max」も、テレグラムも使えない。
下院議員のミハイル・デリャーギン氏は、「議員は国民と一体であるべきだ」と皮肉を飛ばした。ネットから締め出されたという点だけは、たしかに一体だ。さらに彼は、「デジタル・デトックス(
モスクワ物理工科大学に至っては、スマホの地図が使えなくなったら太陽や星で方角を確かめるよう、市民に呼びかけている。モスクワ・タイムズが報じた。
この一幕を、テレグラフ紙は見出しで「トランシーバーと紙の地図」の時代に逆戻りしたと皮肉った。
プーチン体制に生じた不協和音
もっとも、通信障害はやがて解消するとの見方もある。英保守系週刊誌のザ・スペクテイターによれば、ロシア下院情報政策委員会のアンドレイ・スヴィンツォフ副委員長は、一連の障害は「トラフィック(通信データ)の経路変更」に伴う副産物にすぎないと説明している。ドローン攻撃の兆候を捉えれば誘導信号を遮断できるよう、国内ネットワークの基礎部分を組み替えているだけだという。
独立系の専門家も、影響は一時的なものだとみている。ロシアのネット分析家で、インターネット保護協会を率いるミハイル・クリマレフ氏はモスクワ・タイムズの取材に対し、当局が許可したサイトのみアクセスを認めるホワイトリストの恒久化を心配するのは「時期尚早に思われる」と述べた。モスクワを含むロシア全土で固定回線はまだ使えるというのが、その根拠だ。

