ロシアの首都・モスクワでモバイル通信を遮断される事態が相次いでいる。スマートフォンが使えず、ポケベルや紙の地図を買い求める市民が急増。海外メディアは、遮断の本当の狙いは単なる安全対策ではないと報じる――。
2026年3月26日、ロシアのモスクワで開催されたロシア産業企業家同盟(RSPP)の年次総会に出席したロシアのウラジーミル・プーチン大統領
写真=SPUTNIK/時事通信フォト
2026年3月26日、ロシアのモスクワで開催されたロシア産業企業家同盟(RSPP)の年次総会に出席したロシアのウラジーミル・プーチン大統領

首都モスクワで起きた異変

モスクワの街頭でこのところ、携帯のデータ通信が通じず途方に暮れる市民の姿が目立つようになった。

3月6日金曜日、モスクワのレニングラード駅。モスクワ市民のルドルフは、タクシーを呼ぼうとした。恋人と一緒にいたが、二人のスマートフォンはどちらもつながらない。画面には配車アプリの読み込みアイコンが虚しく回り続けるばかりだ。

辺りを見回すと、同じように画面を睨みつけたまま立ち尽くす人々が、駅構内のあちこちにいた。ルドルフのアプリの不調ではなく、モバイルインターネットが丸ごとダウンしていたのだ。

この際の通信断は週末を挟んで断続的に生じ、混乱が広がった。独立系ロシア語ニュースサイトのメデューザによると、通信障害は同週末を通じて何度も起きたという。Wi-Fiを代わりに使おうにも、認証に必要な電話回線すら不通となっており、モスクワ市民に戸惑いが広がった。

中心部を意図的に遮断

同じ週末、市内中心部にいたリナは、「最初はVPNか何かのトラブルだと思った」と振り返る。だが通信が戻ったのは、都心を取り囲む第三環状道路(一周約36キロ、JR山手線とほぼ同規模)の外に出てからだった。環状道路の内側では通信がまだら状にしか機能しておらず、通りを数本を隔てた先に移動するだけで、モバイル通信が全く届かなくなる状態だった。

通常ならばモスクワは、世界で最もデジタル化が進んだ都市の一つに数えられる。行政手続きの大半は電子政府ポータルで完結し、地下鉄の改札から日用品の支払いまで現金に触れる必要がない。移動は配車アプリに頼り、食事はフードデリバリーで済ませる。いずれもクレムリンが数十年かけて築いてきたインフラだ。市民はもはや、このネットワークなしには暮らせない。

ところが当のロシア政府が、「安全保障上の措置」と称してそのネットワークを遮断した。築き上げたデジタル都市は、前時代的なアナログに引き戻されようとしている。

ポケベル、トランシーバーや紙の地図が売れている

CNNが3月21日に改めて報じるなど、モスクワでは断続的な通信断が続いており、巨額の経済的損失を生じている。

ロシア独立系英字紙のモスクワ・タイムズが報じた専門家の推計では、遮断開始からわずか5日間でモスクワの事業者が被った損害額は、30億〜50億ルーブル(約57億〜95億円)に上る。スマートフォンで回っていた宅配、タクシー、カーシェアリングが一夜にして止まり、小売業者はオンラインの受注を丸ごと失った。

経済へのダメージが日ごとに膨らむなか、市民はアナログへの回帰を急いでいる。英高級紙のテレグラフがロシア最大手のオンライン小売業者ワイルド・ベリーズのデータを引いて伝えたところでは、遮断開始以降、ポケベルの売上が73%急増した。