「とりあえず年収は上がりますから」
十数年前、当時勤めていた会社で営業をしていたときのことです。日本のトップエリートとされる企業の中堅管理職に対して、挑戦的な提案をさせていただいた際にこんなふうに言われたことがありました。
「会社が成長してもしなくても、とりあえず私たちの年収は上がっていきます。だからうちの事業のことは、そんなに気にしないでください」
私は衝撃を受けました。課題に対して解決策を精一杯考え、優先順位を決めて挑戦するのが当たり前だと思っていた、自分との仕事観の違いに何も言えませんでした。生き方としてはこうした姿勢もありかもしれませんが、経営の視点から見ると、変化や挑戦が検討・推奨されずに固定化してしまいます。課長以下一般社員はそんな先輩の背中を見て、「新規事業をやると言っていたけど、やらないんだな」「人的リソースを増やしてくれる気はないんだな」など、よくない実体験ばかり積んでいきます。新しい企画や改善策を提案しても「大課長」によって却下されたり、うやむやにされたりすると、その社員は「頑張っても、何も変わらない」と、もともと持っていたやる気を失ってしまいます。そしてその無気力ムードは、じわじわと部署内に蔓延していきます。
変革を求めても、何も変わらない
理想的な部長や本部長は、経営層の示した方針と現場の状況の双方を踏まえ、自ら最適な打ち手を考えて実践します。経営層と現場の橋渡しをするのです。しかし「大課長」の部下たちは、「大課長」自身もどうせ本気ではないことを知っています。結果として、現場の社員は「笛吹けども踊らず」状態になり、経営方針が全社に浸透することが難しくなります。
一方で経営層は、部長や本部長が現場に方針を伝達し、実行しているものと考えています。それなのに効果が出ていないのなら、また別の策を講じなければならないと考えるでしょう。実態とはかけ離れたその認識が正されなければ、次に打ち出される方針は、さらに現場との乖離が大きいものになってしまいます。しかも一般社員たちは、「やれやれ、また新しい仕事が降ってきた」という程度にしか受け止めません。現場の第一線で働く社員の一部が「このままではいけない」と危機感を持って変革を求めても、結局何も変わらない。その結果、次のリーダーと目されていた社員の目はうつろに、その下の若手にも不安が広がっていくのではないでしょうか。

