空気を運ぶよりマシ、Z世代へのきっかけづくり
一つは、閑散期の売り上げを補うためだ。鉄道事業は構造的に固定費が高い事業であることから、多くの乗客が利用する繁忙期であっても利用が落ち込む閑散期であっても、かかる経費にそれほど大きな差はない。このため、閑散期に潜在的な需要を掘り起こすためにチケットの安売りを行っても損にはならない。「空気を運ぶよりは格安ででも乗ってもらったほうが得」というわけだ。
実際、キュンパスによる閑散期対策はしっかり効果が出ているようで、JR東日本によると2月の新幹線断面輸送量(特定の地点・区間を通過する利用者数)は前年比106%(速報値)だったという。
もう一つの狙いは、普段は新幹線に乗る機会のない若者に対して格安で乗車できる機会を提供し、乗車のきっかけづくりを与えることで需要を掘り起こすことだ。
Z世代と呼ばれる、1990年代後半~2010年代初めに生まれた今の若者たちは、従来の若者よりも自動車の所有や運転に対する関心が弱い傾向があるといわれている。維持費の高い車を所有するよりも、スマホや旅行にお金を使う傾向の強い彼らに「新幹線」という新たな移動の選択肢を与えることで、将来の「お得意様」に育て上げようとしているのだろう。
「平日限定」で閑散期需要をコントロール
JR東日本のグループ経営ビジョン「勇翔2034」を見ると、同社は地方都市の過疎化の進行と、想定以上のペースで減少する出生数に危機感を抱いていることが読み取れる。
「より首都圏への人口集中が加速する」と分析しており、こうした中で継続的な成長を遂げるためには、潜在的なニーズを掘り起こすことができるような商品やサービスを開発し、鉄道事業と非鉄道事業(生活関連事業)を連携して効率よく増収を図っていくことを目指すとしている。鉄道事業は、2031年度には2024年度の1兆8515億円から2000億円の増収の2兆円超えを目指す。
グループ経営ビジョンと照らし合わせると、キュンパスの販売やタイムセールが、閑散期において、特にJR東日本の営業エリアの新幹線の需要の掘り起しに貢献していることは間違いない。さらにキュンパスは、新幹線を降りた先のJR在来線にも乗り放題となることから、特に首都圏在住者の地方への旅行を活発にし、地域経済の活性化も期待できると言えよう。また、同社の視点からは、利用条件が厳密に指定されていることから、特に閑散期の潜在需要のコントロールをしやすい設計となっているともいえる。
