専門職より隣国で皿洗いしたほうが稼げる

産業が単純化し、付加価値が上がらなければ、賃金は当然ながら停滞する。一方で住宅価格は世界有数の水準まで高騰した。若者にとって、自国で家を買い、家族を持つことが現実的な目標から遠ざかっていく。

そこで若者が目を向けたのが、隣国オーストラリアだった。オーストラリアは人口約2700万人。資源国でありながら金融、インフラ、IT、高度製造業といった「産業の厚み」がニュージーランドとは比較にならない。

ニュージーランド統計局およびオーストラリア統計局のデータによれば、2023年時点でオーストラリアの平均週給はニュージーランドを約25〜30%上回る水準にあり、この格差はここ10年で拡大傾向にある。

若者の間では「オーストラリアで皿洗いをするほうが、ニュージーランドで専門職に就くより稼げる」という言葉が現実味を持って語られているという。

ニュージーランド人はオーストラリアでビザなし就労が可能なため、出国者の多くが海を渡る。優秀な人材が流出し、高騰した不動産と高齢化した人口構造だけが残るという経済の活力喪失が進行している。

シドニーハーバーの眺め、オーストラリア
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元首相ですら母国を捨ててしまった

ニュージーランドでは近年、同国を率いたアーダーン元首相がオーストラリアに生活拠点を移したことも報じられている。このニュースはニュージーランドでは思いのほか衝撃を与えておらず、「最も選択肢を持つ立場にあった人物ですら、より大きな経済圏を選ぶ」という現実を示している。

ニュージーランドの人々は言葉ではなく、「オーストラリア移住」という行動で国家の将来に判断を下しているのである。

本稿を読み、「日本だってニュージーランドと同じようなものではないか」と感じた人もいるだろう。

だが、冷静に分析すれば、日本にはニュージーランドが持ち得なかった「産業の多様性」がまだ残っている。自動車、半導体素材、精密機器、そして世界的なコンテンツ産業。これら多角的な強みはニュージーランドにはない優位性だ。

「日本もニュージーランドも同じ」とは言えないが、「同じ轍を踏む危険性がある」という警戒は怠れない。

ニュージーランドの経緯が示す教訓は3つある。