「住みやすい」で喜ぶのは高齢者だけ

第三に、若者の流出はある閾値いきちを超えると、政策で止めることが極めて難しくなる。

若者の流出が深刻化しているポルトガルでは、政府が2019年に35歳以下を対象とした所得税の大幅軽減措置(IRS Jovem)を導入した。だが、OECDの労働移動統計や現地報道によれば、その後もEU域内への若年層流出は続いており、税制優遇単体では定住を促す効果は限定的とされている。

賃金水準や産業の厚みという根本的な魅力なしには、税制措置だけでは若者を引き留めることはできないことを示す事例と言えよう。

「治安が良い」「住みやすい」という情緒的な理由だけでは、合理的な若者を繋ぎ止めることはできない。なぜなら、それこそが高齢化をもたらし、若者の目を外に向かわせる「高齢社会の論理」そのものだからである。経済成長の展望を持てない国に、若者が長期的な将来設計を描くことはできないのである。

「痛みを伴う政策」こそ最大の処方箋

日本に足りないのは、材料(技術や資本)ではなく、それらを最適に配置するための意志と政策だ。

既得権益を打破し、非効率な産業から高付加価値産業へ労働移動を促すこと。金融資産を不動産や貯蓄からリスクマネーへと還流させること。そして何より、「現役世代・若年層の経済合理性に応える」投資優先の政治へ舵を切ることが求められている。

ニュージーランドの若者がオーストラリアを目指す姿は、決して対岸の火事ではない。日本が「稼げる国」としての競争力を取り戻せなければ、次世代もまた同じように海を渡ることになるだろう。

スーツケースを引く人
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日本がリソースを集中すべき領域は大きく3つある。

第一は、「素材・デバイス」産業の死守だ。ニュージーランドには製造業の基盤がなかったが、日本には世界シェアの大部分を握る特定部材や製造装置が存在する。これらは世界的なチョークポイントとなりうる重要産業だ。

日本は最終製品(スマートフォンや電気自動車本体)での競争に固執するのではなく、それらを作るために不可欠な半導体素材、精密化学、工作機械といったBtoB領域に公的支援と税制優遇を集中させるべきである。

世界が日本抜きでは立ち行かない急所を握り続けることで、外交的・経済的なプレゼンスを維持しながら高い利益率を確保する。これがニュージーランドには持ち得なかった日本固有の強みであり、最優先で守り抜くべき資産である。