中国シフト成功で「今のままでいい」

ニュージーランドの産業高度化が停滞した背景には複数の要因があるが、その一つの契機として見逃せないのが、2008年に西側先進国として初めて中国と締結したFTA(自由貿易協定)である。

2000年代、中国の高度成長に伴い中国人中間層が爆発的に増加すると、ニュージーランド産の粉ミルクや食肉の需要が急増した。

対中輸出の急増によって経済は潤い、表面上のGDPは右肩上がりを記録した。だが、ここに大きな構造的問題があった。

輸出の主体はあくまで加工度の低いコモディティ(汎用品)であり、本来ならこの利益をR&D(研究開発)などの先端投資に回して、アグリテック(農業技術)や高付加価値なバイオ産業へ進化させるべきだった。

ところが、政府と企業は「売れているから、今のままでいい」と判断し、現状維持を選択した。対中コモディティ輸出の成功体験が、産業転換への投資インセンティブを構造的に損なっていった。これがニュージーランドを「資源切り出し型の古いモデル」に縛り付けた大きな要因となったことは間違いないだろう。

ウェリントン、ニュージーランドのランドマーク
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稼いでも稼いでも、住宅ローンに消える

産業への投資を阻害したもう一つの要因が、異常なまでに過熱した不動産市場だ。ニュージーランドでは家計資産の大部分が住宅に向かい、銀行融資の多くも生産的な企業投資ではなく住宅ローンに充てられてきた。

リスクを伴うスタートアップ投資よりも、確実に値上がりし、かつては節税メリットも大きかった住宅投資に資金が集中する構造が定着した。

資金が将来を創る新産業ではなく、既存の住宅価格を押し上げるために費やされる。この構図は、経済学的に見れば最悪の資源配分である。

不動産価格の高騰は「持てる者」を富ませるが、富を生まない非生産的な資産にマネーが滞留し、結果として国民の生活コスト(住居費)だけが跳ね上がる。イノベーションが起きない中でコストだけが上がる。これが、現在のニュージーランドを停滞に押しとどめる構造的悪循環の正体だ。