最安コストを誇るサウジアラビアの逆襲

アメリカという「世界最大の買い手」が、突如「世界最大のライバル売り手」に変貌した――。OPECの盟主であるサウジアラビアと、OPEC非加盟国で世界第2位(当時)の生産国であったロシアにとって、これは悪夢以外の何物でもありませんでした。

アメリカのシェールオイルが市場に溢れかえった結果、2014年半ばには1バレル=110ドル以上あった原油価格は、2015年末には30ドル台へと暴落します。

OPECとロシアは、国家予算の大半を石油収入に頼る「モノカルチャー経済」です。この価格暴落は、国家財政の破綻を意味します。

ここでまず動いたのは、サウジアラビアでした。当時、実権を握り始めていた若きムハンマド・ビン・サルマン副皇太子(現皇太子、通称Mbs)は、大胆な「価格戦争」を仕掛けます。

「ならば、我々は『減産』しない。むしろ『増産』して価格をさらに叩き潰し、コストの高いアメリカのシェール企業を市場から一掃してやる」

サウジアラビアの原油は、砂漠に穴を掘れば勝手に湧き出てくるようなもので、生産コストは世界最安(1バレル=10ドル以下)です。一方、シェールオイルは、水圧破砕法など複雑な工程を経るため、コストが(当時は)40ドル~60ドルと高かったのです。

3カ国が石油価格を左右する新体制へ

この「消耗戦」は、確かに多くのアメリカのシェール企業を倒産に追い込みました。しかし、サウジアラビアもまた、自らが仕掛けた価格戦争によって財政が火の車となり、音を上げます。そこでMbsは、戦略を180度転換します。

「アメリカを潰すのが無理なら、別の巨人と手を組むしかない」

その相手こそが、同じく低価格に苦しむロシアのウラジーミル・プーチン大統領でした。2016年、歴史的な合意が成立します。OPEC加盟国と、ロシアを中心とする非OPEC産油国が、共同で「協調減産」を行うことを決定したのです。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子兼国防大臣との会談
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子兼国防大臣との会談(写真=Пресс-служба Президента России/Kremlin.ru/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

これが、現代の石油価格を決定づける最強のカルテル「OPECプラス」の誕生です。

世界の石油地政学は、

1・アメリカ(価格の「天井」を守る力)
2・サウジアラビア(価格の「底」を作る力)
3・ロシア(両者に影響を持つソロプレイヤー)

という、三つ巴の「新・三極体制」へと移行しました。

しかし、このMbsとプーチンという、二人の強権的な指導者の「同盟」は、常に利益とエゴが衝突する、極めて不安定なものでした。