「医療」と「暮らし」が融合する家
さらに、この「ウェルネス」への渇望は、ついに「医療」と「住まい」の境界線すら消滅させようとしている。
その最たる例が、アメリカ・フロリダ州マイアミで注目を集める「The Well(ザ・ウェル)」だ。
ここは、ニューヨーク発の会員制ウェルネスクラブThe Wellが手掛ける、医療とウェルネスを統合した革新的なレジデンスである。
The Wellは現在、マイアミで2つの異なるプロジェクトを展開しているが、共通しているのはその徹底したサポート体制だ。
どちらのレジデンスでも、入居者には臨床訓練を受けた医師、ライフスタイルコーチ、栄養士、パーソナルトレーナーなど、専門家チームによる包括的なケアが提供される。
一つ目の「Bay Harbor Islands」は、わずか54戸のプライベート感を重視したレジデンスだ。ここには2万2000平方フィート以上のアメニティスペースがあり、マイアミ初となるカルダリウム(古代ローマ式の温熱浴)や、IV(点滴)療法が受けられるラウンジが完備されている。
もう一つの「Coconut Grove」は、より大規模な194戸のプロジェクトだ。こちらの特徴は、4万平方フィート(約3700平方メートル)もの広大な屋上アメニティデッキだろう。そこには「フィットネス・フォレスト」と呼ばれる緑豊かな屋外エリアがあり、2つのプール、ホット&コールドプランジ、ピックルボールコート、そして屋外レストランが設置される。
また、建物内には1万3000平方フィートのWellness Clubがあり、ハイパーバリックチャンバー(高圧酸素室)、3つのクリスタル洞窟リラクゼーションラウンジ、IVセラピーが受けられるVitality Loungeなど、最先端のリカバリー設備が完備されている。
「リビングの広さ」よりも重要な要素
それだけではない。
レジデンスには、自律神経をリセットするShiftwave Recovery Chairが設置された専用コンサバトリー、共用バスハウスにはスチーム、サウナ、コールドプランジ(水風呂)、カルダリウムが完備される。さらに、住戸内で使用できるウェルネステクノロジー(Theragun、赤外線ブランケット、リンパブーツなど)をレンタルできる「THE WELL Locker」サービスも提供される。
つまり、ただそこに住んで呼吸し、眠るだけで、自律神経が整い、パフォーマンスが最大化されるようにプログラムされているのだ。
多忙を極める現代の富裕層にとって、最大の資産は「自分自身の健康」である。彼らはビジネスで極限のプレッシャーにさらされ、常に高いパフォーマンスを求められている。だからこそ、自宅は単なる休息の場ではなく、「リカバリー(回復)のための装置」でなければならない。
彼らは「広いリビング」よりも、「翌朝、最高のコンディションで目覚められる環境」に数億円を支払うことを惜しまない。
「The Well」のようなプロジェクトは、いわゆる「バイオハッキング(科学や技術を使って自身の生物学的機能を最適化すること)」のトレンドとも合致している。自分の体を「資本」と捉え、投資対象とする。その究極の形が、住まいそのものを医療機器化してしまうことなのだ。


