最後の一歩で立ち止まったイラン
さて交渉は、大筋で合意したものの、欧米によればイランが最後の決断を下さないまま、2022年秋を迎えた。
冬に向かって気温が下がり始め、ヨーロッパのガス需要が高まれば、それだけイランの交渉力は強くなる。また11月の中間選挙を前にバイデン政権が石油価格を引き下げるために譲歩してくるのではないかとの読みもイラン側にあったのだろうか。
何度も期待を抱かせながら、結局、イラン側は最後の一歩で立ち止まった。これがアメリカ側の認識だった。
もちろんイランによれば問題はアメリカにあった。イランはワシントンが二度と合意から離脱しないとの保証を求めた。つまりバイデン政権はもちろん、次の政権も合意から離脱しないとの約束を求めた。
トランプ大統領の一方的な離脱で合意が機能停止に陥った事実を踏まえれば当然の要求とも言える。だがバイデン政権は次の政権の手を縛る約束は法的にできない。イランがこの要求に固執する限り、合意の再建は望めない。そうした状況だった。
核合意再建を難しくしたイラン国内の事件
そして秋が来て状況に大きな影響を与える展開があった。
まずイラン国内での抗議活動が始まった。9月に若い女性が当局に拘束された。理由は、その服装がイスラム的でなかったからだ。女性はその後、死亡した。
これに対する抗議行動が起こり全国に波及した。女性の権利の抑圧への怒りばかりでなく、長年にわたり鬱積していた国民の不満が爆発した観があった。それは経済の停滞であり政治の閉塞状況である。
抗議運動に直面したイラン政府にとっては、核合意の再建交渉の早期結着が望ましかった。制裁が終われば、国民の不満の背景となっているインフレや失業などの状況は改善される。
ただ、この抗議運動への政府の強硬な対応が、欧米にとってイランとの交渉を難しくした。国民を弾圧した血まみれの政府と交渉するのには、政治的な困難が伴うからだ。国民の抗議運動が、イラン政府にとって核合意の再建を必要にし、同時に難しくした。
この抗議行動は、やがて抑え込まれていく。だが国民の不満は解消されることなく再び深く沈潜した。次の爆発の時を待つかのように。



